第347話 女性が男性

 聖槍町。


 三方を山に、もう一方を海に囲まれた町。


 美しい自然にあふれていた町は、数年前に世界的な企業が土地を買収したことで近代的な建物が並ぶモダンな町並みに変わった。


 そして、現在。


 その町は、今や町であったという認識さえ難しいほどに破壊され尽くしていた。


 建物は骨組みが残っていれば良い方で、ほとんどはただの瓦礫の山と化している。


 元々、世界が変わってから2ヶ月ほどの間に半分程度の建物は壊れていたが、それでも、まだいくつも鉄筋で出来た頑強な建物などは残っていた。

(マドカが焼いた建物もいくつかは、ある)


 その残っていた建物さえも破壊されたのは、わずか30分にも満たない程度の時間で起きた出来事だ。


 破壊した犯人を、なんと呼べばいいのだろうか。


 見た目は、女性だ。


 一糸も纏っていない年若い裸の女性。


 髪は肩口ほどで、華奢な体躯は大人しそうな印象を受ける。


 つまり、まとめると犯人は裸の美少女、だろうか。


 大きさが人と同じならば、だが。


 例えるなら、小さなマンションや二階建ての大型のバスだ。


 大きな、とても大きな女性。


 しかし、女性ではない。


 体は男性なのだ。


 見た目が、ではない。


 中身が、だ。


 この中身とは、性同一性傷害による心や内面の話ではない。


 物理的に、いや材料的に男性なのだ。


 ……よく分からないだろうか。


 つまり、男性の体を使用して大きな女性が作られているのだ。


 これを、なんと呼べばいいのだろうか。


 髪は男性の髪や髭や陰毛などを寄り合わせて作られており、体の皮膚には所々男性の顔や手や足や腹や陰茎が、うっすらと浮かび上がっている。


 こんなモノを、なんと呼べばいいのだろうか。


 町にいた生き残りの男性のほとんどを材料に作られた巨大な女性。


 ただおぞましく、汚らしい、悪魔のような思想で作られた、なれの果て。


 美術の教師として……何かを作成をする喜びを学生に教える仕事をしていた者として、滝本は吐き気を押さえながら、しっかりとその女性のようなモノをみる。


 男性の体で作られたモノの頭の上に立つ、人物をみる。


「ははははは!」


 男が笑う。


 男性の体で作られた女性の上に立つ、常にゆらゆらと揺れる男。


 薬馬 幸太郎。


 シシトが先生と慕う薬学部の学生。


 彼は今、破壊された聖槍町を眺め、歓喜に震えていた。


 目の前に広がる戦車と砲台、機関銃の群に興奮していた。


 聖槍町に残る最後の戦力。


 ワイバーンさえも撃墜した鍛え上げられた戦士たちの殺意は、ヤクマにとって心地良かった。


 なぜなら、雑魚だから。


 一斉に放たれた銃弾、砲弾が、巨大な女性のような化け物に直撃する。


 彼女?を構成する男性の鼻や陰嚢が破裂して飛び散るが、すぐに再生して女性の姿を構築していく。


 女性のような化け物には攻撃が効かない。


 ならば、と化け物の頭の上に立つヤクマ本人を狙い、ライフルなどによる狙撃が実行される。


 しかし、それも同様に効果がなかった。


 ヤクマの頭も腕も腹も足も、破裂し、千切れた瞬間に元の形に戻っていく。


 ヤクマも女性のような化け物以上の再生力を持っていたのだ。


「あっはぁっ!あははっははっははは!!」


 ヤクマは笑う。


 幸せそうに。


 銃弾と砲弾の雨を浴びながら、何事もなく前進した女性のような化け物が、戦車の一台を捕まえた。


 そして、戦車を腹部に押し当てると、そのままズブズブと飲み込んでいく。


 グチュグチュと腹部が蠢き、わき腹からちり紙のように丸められた戦車が吐き出された。


「あ……ああああ……助けてくれ……」


 戦車に乗っていた男の一人が、腹部から一瞬だけ顔を出し、また飲まれていく。


 そして、十秒ほど経過した頃だろうか。


 女性のような化け物の右の乳房の乳首から、イボのようなモノが吹き出てきた。


 それは、先ほどの男だった。


 首だけ女性のような化け物の乳首から飛び出して、キョロキョロと辺りを見回している。


 そして、男は笑った。


「あ……あはははははあははあははははっはっはあああなんあんんんんあああああああああ!!」


 目に涙を浮かべながら、『幸せ』そうに。


 ヤクマと一緒に、笑い続ける。


 その笑い声は徐々に増えていき、聖槍町に残っていた戦力は、完全に壊滅するのだった。

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