第295話 シンジが眠る

 明星 真司は、自分の部屋に戻ると、そのまま倒れるように、ベッドにその身を投げ出した。


あのあと、そのままセイと『神体の呼吸法』の修練をしたのだが、セイはユリナとは違い、意識を失うことはなかった。


(さすが、って感じだね。コタロウの話だと、常春さんの家が元祖らしいし。それに、常春さんは……)


世界中にあふれる『神』、『欲望』を集め、体内に維持する『神体の呼吸法』。


その修練方法の一つが、互いに抱き合い、『神』を送り合い、循環させ、『神』の純度と体内にとどめる量を高める方法。


つまり、この修練の方法は、『房中術』の一種になるのだろうが。


(……まぁ、これを言った常春さんの反応が怖いから、言わないけど)


シンジは立ち上がる。


そして見たのは、鏡。


シンジの姿をくまなく写せるほどの大きさの鏡は、生き返った時に、コタロウに準備をしてもらった物だ。


殺されて、生き返って。

コタロウに、自分自身のことを聞き、自分自身の事を知らないと自覚したシンジは、自分をしっかりと観察することが大切だと理解した。


だから、それ以来、シンジは毎日鏡の前に立つ。


じっと鏡の自分を、風呂に入り、ラフなジャージ姿に着替えた自分を、見て、観て、視て。


大きく息を吐く。


「……変わらない、か。わかっていたけど」


でも、変わっていないなら。


「このまま、だな。色々悪いとは思うけど……楽しませてもらうか」


シンジは再びベッドに倒れる。


「常春さんに、水橋さんに、豊橋さんに、飾道さんに……とびきりの美少女ばかりだ。最高だ。本当に」


シンジは笑っていた。


楽しそうに。嬉しそうに。


そんな感情とは、まったく逆の表情で。


「……しょうがない」


そのまま、シンジは目を閉じる。

意識を闇に溶かし、自分を世界に混ぜて溶かしていく。


指先から広がり、四肢が解け、自分と世界の境界が無くなる。


(体内に『欲望』を、『世界』を取り込むのが『神体の呼吸法』なら、体を『世界』に混ぜるのは……何か名前があるのかな?)


そんな疑問も、解けていく。


シンジが眠るときにおこなうルーティン。。


闇を漂うように、さらに意識を溶かしていくと、動いている存在に気がついた。


近づいてくる。


気配は、シンジの部屋の前で立ち止まると、軽くノックをした。


「……どうぞ」


シンジは溶かしていた自分を戻し、起きあがる。


「失礼します」


入ってきたのは、ヒロカだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る