第178話 小さいが好み
磯谷 俵(いそや たわら)。
彼が、ある自分の性癖に気づいたのは、二十歳の時だった。
地元では、下から上へ、女を紹介する橋渡し的な役割を担っていた彼は、いつも通り地元の後輩に連れてこさせた適当な女を、適当なホテルに連れ込み、適当に殴り、犯し、脅して、壊して、適当に人生を楽しんでいた。
そんな適当に楽しい日々の中、ふと彼は思ったのだ。
気持ち悪いな、と。
その日、彼が暴行した女は、後輩の同級生だという女子校に通う高校生だったのだが、それが、気持ち悪いことに気が付いた。
何が気持ち悪いのか。
彼の仲間や先輩は、女子高生だと喜んでいたが、彼はそれをまったく理解出来なかった。
それから、彼の先輩などの意向もあって、ターゲットをOLから、中学生やはたまた小学生まで様々に変えていったが、それでも、まだ、彼は気持ち悪かった。
「うーん、やっぱり可愛いっすね。最高っすよ、百合野ちゃん」
ネネコを殺され、つい叫んでしまったマドカに気づいたイソヤが、マドカを見て笑顔を見せる。
「おデブちゃんとかセンセーとか、JCとかJSで興奮していたけど……いや、キモいでしょう。JCとか、JSとか」
イソヤは持っていたネネコの首なし死体を放り投げ、手を自分の胸の辺りに持って行く。
「だって、だってさ。大きすぎだって、普通に考えて。ネネコちゃんだって、普通の時はこれくらいになるんっすよ? 一メートル超えているじゃないっすか。キモいキモい。女の子は、十五センチ。それがベスト。掴んで、簡単に首が取れるくらいの大きさじゃなきゃ、女の子は可愛くないって。そう思うっしょ? 百合野ちゃん?」
平然と、朗らかに、イソヤは言ってのける。
「あ、そうそう、そこから動かないでね。大丈夫、お兄さん、好きになった子には優しいっすから。ネネコちゃんは、ちょっと生意気なことしたからこうなったけど、大丈夫。お兄さん、マジで百合野ちゃんに一目惚れ。運命の出会い、的な? I LOVE YOUですよ。マジで。小さくなってから、特にヤバい。だから……逃げるなよ?」
イソヤが、マドカに向かって歩き始める。
あと、数秒で、おそらくイソヤの手はマドカを掴むだろう。
ネネコの首を、あっさりちぎったその手で。
ネネコの死体を放り投げた、その手で。
「……フェス!」
「うおっ?」
そんなイソヤを大量の水が襲った。
消防車のホースから放たれる水よりも激しい勢いの水が、イソヤの体のバランスを崩し、転倒させる。
「フェス!」
それは、グレスが放った水の魔法、『スイズミ』だ。
「いてて、何っすか? いきなり水が……」
「フェ……ス!」
起きあがろうとしたイソヤに、グレスが再び水の魔法を浴びせる。
『スイズミ』は部屋にあった机などを巻き込み、津波のような勢いを持った濁流に変わる。
「うおっと?」
その濁流がイソヤの前で、消えた。
彼が腕を振るったと同時に。
彼の腕には、しっかりと、木で出来た小さな槌が握られている。
「ビックリした……ん? 誰っすか、アンタ?」
「フェ……フェス!」
消えた濁流。
そして、彼の周りに散らばっている、ミニチュアサイズの机を見て、何をされたか悟ったグレスは、マドカの手を掴む。
「グレスちゃん……!」
『飛びます!』
グレスの背中に金色の羽が現れる。
同時に、今まで光っていなかったグレスの体が輝き始めた。
『しっかり掴まっていてください!』
「う、うん」
マドカはグレスに、正面から抱きつく。
それと同時に、マドカ達の体が宙に浮き始めた。
「……羽!? もしかして、妖精? マジっすか!? うわっ! ……潰したい!!」
イソヤが、目を輝かせる。
「ちょっと、待つっすよ!」
「え……ちょっと、グレスちゃん?」
そんなイソヤを当然無視して、グレスはマドカの目を片手で覆った。
「フェス!」
グレスが気合いを入れるような声を出すと、グレスの体の光がさらに強く輝き始める。
まるで、太陽のように。
そのグレスの光は、欲望に輝いていたイソヤの目をくらませた。
「うわっ!? 何っすかコレ? ちょっと、妖精ちゃん、待つっすよー!」
その声を無視して、グレス達は部屋から飛び出し、逃げ出した。
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