第65話 シンジが教える
「よし、終わり」
片足部分が完全に無くなっていた男子生徒の制服を元に戻したシンジ。
けっきょく、損傷が激しかった十数名の制服を直しただけだった。
MPもほとんど減っていない。
シンジは、また校舎の屋上を見る。
どうやら、最後まで待つようだ。
なら、あとやることは……
シンジは、滝本と、周囲を警戒するように見ているブレンダたちを見る。
校庭にいる者で、シンジがやろうとしている事に該当する者は、この三名しかいないようだ。
「滝本先生。ブレンダさんと、郡山さんもこっちに来てください」
シンジの呼びかけに、3人が集まってくる。
「どうした?」
「これから、皆、食堂に避難してもらいたいと思っています」
シンジの言葉に、怪訝な表情を返す3人。
「……なんで食堂なんだ?」
ミサコが、聞く。
「うーん……まぁ、簡単に言ったら、結界があって魔物たちが侵入出来ないようにされているんです」
シンジの言葉を聞いて呆れたような顔をするミサコ。
「魔法の次は、結界か。まるでゲームかおとぎ話だな」
「ドラゴンとか出てきているのに、今更だとは思う」
とブレンダ。
「……どうするんだ?」
滝本の問いに、ミサコは少し考える。
「……そうだな。一度食堂に行こう。どちらにしろ、屋上に行ったところで、ヘリでの避難は当分無理だ。ケガが治ったといっても、皆疲れもある。食堂は、この5日間、生徒たちが避難してきた実績もあるし安心するだろう。それに、もしかしたら、半蔵隊長がいるかもしれない」
半蔵は、ロナを探して校舎に戻っている。
そして、ロナは、食堂にいるはずだ。
ならば、半蔵はまず食堂に向かい、ロナと再会し、その後屋上に向かうだろ。
まだ、半蔵たちが食堂にいるか分からないが、食堂に向かうのは、悪い提案ではない。
本当は、ロナも半蔵もすでに食堂にはいないのだが。
ミサコ達は、そのことを知らない。
ミサコの決定に、うなづくブレンダと滝本。
「じゃあ、その前に、3人に確認してもらいたい事があるんです」
そう言って、シンジは右胸の内ポケットから、自分のスマフォを取り出す。
「俺が使っていた魔法とかを使うためには、こういったiGODっていう、端末が必要なんですけど、たぶん持ってないですよね?」
シンジの問いに、三人ともうなずいて答える。
「やっぱりかー……。まぁ、銃とか使っていたら、音にも気づかないだろうし、走っていたみたいだしなぁ」
シンジが、頭を掻く。
「なんだ?それを持ってないと困るのか?」
滝本が、興味深そうに聞いてきた。
ミサコとブレンダは、無表情のままだが。
「これがあると、レベルアップとか、今の現状をより詳しく理解できるんですよね。そうすれば、たぶん、郡山さんとか、ブレンダさんでも、俺みたいにドラゴンを倒せていたと思います」
「……本当か?」
シンジの言葉に、無表情だったミサコとブレンダが反応する。
「ええ、5日前まで、一般人だった俺がドラゴンを倒せるようになったんです。ずっと訓練をしていた郡山さんたちなら、もっと強くなっていたと思います」
「……君が一般人?」
「ええ、俺は普通の高校生ですよ。それでも、ドラゴンを倒したんです。このiGODを使って、強くなりました」
多少、ズルがあったのだが。
シンジは、それは言わなかった。
「君が普通の高校生だったとは思えないが……まぁ、いい。それより、それは……どうやったら手に入るんだ?」
ミサコが、努めて静かな声で、シンジに聞く。
「初めて魔物を殺した時に、頭の中で音が聞こえて、近くに落ちてくるみたいなんですけど……分からないですよね」
シンジの答えに、残念そうに頷くミサコ。
ミサコも、ブレンダも、仲間をドラゴンに殺されているのだ。
強くなりたいと、思っていた。
シンジのように。
それが、魔法や、結界や、訳の分からない道具だろうが、手に入るなら欲しかった。
「まぁ、持ってないなら持ってないで、呼び出せるみたいですよ」
ゆえに、シンジの言葉に、ミサコとブレンダが、目を見開く。
「ほ、本当か?」
「ええ。こういった、スマフォみたいな端末が、手元に戻ってくる事をイメージして、『リゴット』と言ってみてください。すると、手元に端末が戻ってくると思うので」
シンジに言われ、目を見合わせるブレンダとミサコ。
その間に、滝本が「『リゴット』」と唱えていた。
「お? 何か来た。これが言ってたやつか? でも、明星とは形が違うなぁ」
『リゴット』と唱えると、滝本の手のひらが淡く光り、そして、滝本の手に、折り畳み式の携帯電話のようなモノが現れていた。
「……そうですね。iGODの形は、持ち主によって変わってくるそうですよ」
「『リゴット』」
滝本に続くように、ブレンダとミサコも自身のiGODを呼び戻す。
ブレンダとミサコのiGODは、5型サイズの迷彩柄のタブレット端末の形をしていた。
不思議そうに、iGODを触るブレンダとミサコ。
「……これは、どう使えばいいんだ?」
「普通に、その形の物を操作するイメージでいいと思いますよ。それ自身に、くわしい操作方法の説明や、強く成る方法も書いてあるはずです。後はそれを読んで、自分たちで研究してください」
「自分たちで?」
「はい。もう、教えることはほとんど無いですし。俺がやったやり方が正しいとは限らないですから。それの最適な使い方は、自分で探して下さい」
シンジの言葉をミサコは不満に思った。
研究する余裕などこの状況であるのだろうか。
シンジがコレを使って強くなったというなら、その方法を手とり足とり教えてもらいたい。
ミサコもブレンダも、そう考えていた。
が。
「そうだな。ただの高校生に、大の大人が、手とり足とり教えてもらうわけにはいかないな。ありがとよ。コレの使い方は、自分で探してみるわ」
滝本がシンジに言う。
「滝本」
心配そうにブレンダが滝本を見る。
「心配すんなよ。俺もいるんだし、一緒に頑張ろうぜ? こういうのは、自分で研究するのが一番楽しいし、力になるんだよ? なぁ、明星?」
滝本の問いに頷くシンジ。
「そうですね……まぁ、先生は、俺にゲームの仕方を手とり足とり聞いてきましたけどね」
「それを言うなよ。あの後出たソフトは、ちゃんと自分で攻略したぜ?」
苦笑いする滝本。
「冗談ですよ」
そう言うと、シンジは蒼鹿を地面に突き刺す。
蒼鹿の冷気が地面を伝わり、2枚の巨大で長い氷壁を作りながら食堂まで伸びていく。
「これは……」
「食堂までの道です。まだ、校庭以外の学校には、魔物がいるみたいですし。これで安全に避難できると思います」
シンジは地面から蒼鹿を抜く。
突然現れた氷の壁に、少し離れた場所にいた生徒たちは色めき立った。
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