第73話
周囲の建材が熱波を反射しているからだろう、室内はかなり温かい――同時に暗いのは、ゆうこんすとうぶは露出した焚き火と違って光を外に出さないからだ。代わりということなのか、メルヴィアが用意したものらしい角燈が小屋の一角の金属製の吊り具からぶら下がって弱々しい光を放っている――それが無かったら室内のほうが暗いくらいだろう。
角燈は硝子筒の半分が研磨された金属板で覆われており、全周に光を放射する様には出来ていない――内側で燃える炎の発する光すべてを一方向、この場合は壁側を照らさずに室内の内側に向けて反射する様に作られているのだ。
角燈を手で持って歩いた場合には、炎の発する光すべてが進行方向に向かって照射されることになる――どういう意味なのかライはそれをどろぼうらんたんと呼んでいたが、壁側に光が飛んでも無駄であるという理由と、暗闇の中で持ち歩いたときに自分のほうに光が飛ぶと夜間視力が潰されてしまうというふたつの意味があるのだろう(※)。
それはあのひこうきでも同じだった。燭台用に硝子筒で作られた風防の定位置の後ろの内壁には一度くしゃくしゃにしてから拡げた薄膜状の金属板が貼りつけられており、壁側に飛ぶ光を反射する様になっていた。そうすることで室内を少しでも明るくするためだろう――実のところ、ライの家にも同様の仕掛けはある。
もちろん部屋の中央に設置するなら反射板など必要無いのだが、卓の無いこの小屋で中央に設置するには天井や梁から吊るすか、地面に直接置くしかない――中央にはゆうこんすとうぶがあるしこの小屋には天井も梁も無いので、壁際に吊るすしか選択肢が無いのだろう。
「この竹は? 変わった色ですけれど」 飴色に変色した建材の竹に繊細な指先を這わせながら、リーシャ・エルフィがそんな質問を口にする。
「この小屋の中で、燃料にする薪を乾燥させるために火を焚いて煙で燻すんだ――煙の成分で変色するんだよ」
「つまり、これは竹の……?」
別に触ったからといって変色した部分が色が元に戻ったりするわけではないのだが、表面には煤がついている――メルヴィアの差し出した布で指先の汚れを拭き取りながらそんな言葉を口にするリーシャ・エルフィに、
「竹の燻製だな。言ってしまえば」 ライがそんな返事をしながらゆうこんすとうぶから少し離れた場所に椅子を設置し、リーシャ・エルフィに着席を手で促す。彼女が椅子に腰を下ろすと、ライはかたわらに寄り添う褐色の肌の女性に視線を向けた。
「こっちを頼む――魚を獲ってくる」
「わかった。……でも大丈夫?」 まともに衣服を乾かす暇も無かったからだろう、生乾きのままの衣装を纏った下肢に視線を落として、メルヴィアが心配そうにそんな問いを口にする。
「心配要らんよ――君が普段着で風邪をひくよりは確率低いさ」 そう返事をしてメルヴィアの肩を軽く叩き、ライは足早に竹小屋の外へと出ていった。
※……
昔知人と愛知県の山の中で泊まりがけのBBQをしたときに、知人のひとりが引っ張り出して展開するタイプのLEDランタンを持ってきていました。確かに明るかったんですが、全周に光を放射するタイプのランタンは自分の目に光が入って闇調応が潰れてしまい、またなにかをランタンで照らそうとするとその光が自分の目に入って逆光になってしまうので、半分だけでいいんじゃないかなとも思いました。
以前自動車屋で働いていたときに備品として用意されていた白熱球の照明も、半分をアルミ板でふさいで逆光にならない様に手を加えてありました。
ソースがどこだったか忘れましたが、自分のほうに光が飛ばない様に作った提灯を泥棒提灯と呼ぶそうです。
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