第71話

 次の猟に出たときに自宅から持ち出す資材の量を考えると今から頭が痛いが、まあ今考えても仕方が無い――最初の野営地でぶんの保存食糧はすべて持ってきたが、高台の砦で略取した食糧はすべて使い切ってしまった。飛行機の野営地に置いてあった保存食とこの野営地の保存食、両方を合わせても、この人数では一食がせいぜいだろう。

 とりあえずは喫緊の問題として、今夜の食事をどうするかだ。

 獲ってきた猪はまだ食べられないし、皮紙の生産業者に猪皮を売却する副収入云々を置いておいても解体するのは次の野営地にしたい。

 魚でもるか――胸中でつぶやいて小さく溜め息をつくと、ライは周りで思い思いにしている学生たちを見回した。

「もう服は乾いたな? 丸太を運び出すのに手を貸せ」 ライはそう言って壁越しに外にいるリーシャ・エルフィに視線を向け、

「彼女を室内に入れるから、おまえたちには外で過ごしてもらう」

 数人が不服そうな様子を見せたが、ライは気にしなかった――彼らも理解は出来ているだろう。言ったとおり、ライとその一行の目的はリーシャ・エルフィの保護であって彼らの保護ではない。酷薄なことを言ってしまえば、不満があるのなら別にライの庇護下にいる必要は無いのだ。

「どこに出せばいいんだ?」 話を聞いていたらしい不破康太郎が、小屋の入り口のところから声をかけてくる。

「そっちの屋根の下の薪置き場に空き場所があるだろ――場所が足りないなら足りないで、外でもいい。また濡れちまうが、今回はもう仕方無い」 その言葉に、不破康太郎が仲間を促して丸太に歩み寄る。丸太自体はライがひとりで小屋に運び込む際に室内でも扱い易い様に短く玉切りしてあるので、扱いには苦労しない――ただ彼らとライではもともとの体力が違うので、ライならひとりで扱えるものでも彼らはふたり必要だ。

 それに口出しをする気は無かったので、ライは自分も丸太を一本かかえ上げた。

「わたしも持つよ」 メルヴィアがそう声をかけてきたが、ライはかぶりを振った。彼女は普通の女性よりは腕力が強いが、ライと同等の膂力はさすがに持ち合わせていない。

「ありがとう、でもいいよ」 そう返事をして、不破康太郎ともうひとりの学生に続いて小屋の外に出る――左手にある竹の屋根の下に彼らふたりに続いて丸太を放り出し一ヶ所に楔を入れてから、ライは続けて室内から出てきた若者たちに残りを置く様に手で促した。

「何本かは火の回りに置いておけ。椅子の代わりだ」 ここにある丸太は高台の上の、比較的若い木を伐り出してきているために細い。椅子に使うには少々物足りないかもしれないが――

 まあ是非もあるまい。胸中でつぶやいて、ライは次の丸太を運び出すために小屋のほうへと歩き出した。

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