第62話
§
「――あれだ」 一度足を止めてライがそうささやくと、ガラが感心した様におおっと声をあげた。彼は木の根元に倒れた猪の屍に駆け寄って、
「でかいですね」
「ああ」
そう返事をして、ガラが担いでいた竹を受け取る――交叉させた肢を縄で括ってその内側に竹を通し、いわゆる『豚の丸焼き』の形で猪の体を竹から吊り下げると、ライはガラを促して竹の一端を肩にかついだ。
血抜きする場所が無いので、そのまま足早に歩き出す――ライとガラでは身長に二十センチ近い差があるので、竹が斜めになってどうにも歩きにくい。だがひとりで運ぶのに比べるとはるかにましなので気にもせず、ライは上機嫌で野営地のほうへと足を向けた。
「服乾いてないけど平気なんですか」 鼻歌混じりに歩みを進めるライに、ガラが後ろから声をかけてくる――ライはそちらを肩越しに振り返って、
「どうせ
その足跡をたどって進みながら、それまで鼻歌だった曲の内容を口ずさむ――Bring Me The Horizonの『What You Need』。NickelbackのBurn It To The Ground』やFall Out Boyの『The Phoenix』、Dark Tranquillityの『The Wonders At Your Feet』、The Frayの『Over My Head (Cable Car)』と並んで、一番好きなナンバーのひとつだ。中学校の文化祭で軽音楽部のヴォーカルに駆り出されて、一時間歌いっぱなしだったのは懐かしくもしんどい思い出だが。
「なんです、それ?」 学生たちにメモを渡したときとはまた違う言語であることくらいはわかるからだろう、ちょうど野営地の防柵の手前に到達したあたりで、ガラがそんな質問を口にする。ライはFall Out Boyの『Don't You Know Who I Think I Am?』を中断して彼に肩越しの視線を向け、
「ただの歌だよ」
エルンにはいわゆる楽曲に歌詞をつけた音楽の文化がまだ無いので、歌と言えるものは宗教歌くらいしか無い――いわゆる讃美歌のたぐいのものが大半で、『
もちろん、『クリスマスキャロルの頃には』の様なクリスマスを題材にした歌謡曲もだ――まああれに関して言えば『クリスマスキャロルの頃には』が流れるころに街中で流れているのは『クリスマスキャロルの頃には』ばっかりで、クリスマスキャロルが流れているのは聞いたことが無いが。あとは山下達郎作詞作曲、歌唱CHEMISTRYの『クリスマス・イブ』くらいか。もしくは松任谷由実の『恋人はサンタクロース』――まあここいらへんが三巨頭だろう。
リーシャ・エルフィがエルンにおける宗教の讃美歌を歌っているのを聞いたことがあるが、曲中における発声はそもそも言語の
それを歌詞と呼んでいいのかはわからないが、曲と一緒に言葉を話すのは吟遊詩人の
そんな歌事情のエルンの住人にとっては、明確な歌詞のある歌というのは珍しいだろう――ロックの様な曲調の音楽はなおのこと。
「なんなら、曲を変えようか? 兵隊にふさわしい歌なら心当たりがある」 ライはそう続けてから、おもむろに英語に切り替えた。
「
「
「
現地住民の皆様とメルヴィアがそろってあげた制止の声に、ライは映画『
いっそファミコ○ウォーズの
※……
https://www.nicovideo.jp/watch/sm41315256
バアル・ゼブルいいよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます