第28話
2
足を水につけると、靴の中に冷蔵庫から出したばかりの様な冷たい水が入り込んできた――澄みきった天然の湧水がスニーカーに染み込み、瞬く間に靴下を濡らしてゆく。
「うわ」
「
まったく同感だ――これなら長時間の歩きで暑さを感じる可能性はゼロだが、代わりにかなりの体温を奪われるだろう。
こちらは季節的には冬に該当するらしく、外気温はかなり低い――
ライは同郷の若者たちの声に頓着した様子も無く、太腿のなかばまで冷たい水に浸かっても平然としていた。
どうやら一行の案内人を務めるのが
それで誰もが反論無く納得する理由はふたつ――ひとつはほかのメンバーに比べて彼が図抜けて地理に詳しいこと、もうひとつはここにいるメンバーの中で彼しか地理がわからないこと。
そのどちらなのかまでは、不破康太郎には判断がつかなかったが――
具体的な距離までは彼は話さなかったが、彼はそれなりに距離があると言っていた――ここにいる男たちは訓練された兵隊の様だが、甲冑を身に纏った兵士が
「そういえば」 同級生のひとりが手を挙げて、ライがそちらに視線を向けた。
「昨日の奴らに俺たち荷物を取り上げられたんだけど、なにか知らないか――スマホとか」 という彼の質問が建設的な様には、康太郎には思えなかった。そんなものが仮に取り戻せたとしても、役に立つとは思えない。
「残念だが、使い方がわからずに壊してたよ」 ライがそう返事をしてくる――なんとなくなつかしげな顔をしているのは、スマホなどという単語を久しぶりに聞いたからだろう。
ライは返事をしてから、川に足を踏み入れた馬の背に乗った金髪の少女に視線を向けた。同行するふたりの女性――深窓の令嬢然とした金髪の少女と健康美あふれる姿態を惜しげも無く晒した褐色の肌の少女、ふたりだけが馬を与えられている。
金髪の少女は昨夜のドレス姿とはうって変わって、ぶかぶかの白い木綿の衣服を着ている。デザイン自体はライのものと同じに見えたので、おそらくもともとは彼のものなのだろう――昨夜を過ごしたこの野営地に、備品として置いてあったのだ。
褐色の肌の少女も少し肌寒いからだろう、真っ白な外套を前で合わせてすっぽりと体を覆っている。
ライと名乗ったあの日本人の若者はほぼ完全にこちら――彼がエルンと呼んだこの土地の言葉を操れるらしく、ふたりの少女たちに何事か話しかけた。褐色の肌の少女がそれに返事をし、金髪の少女が柔らかな笑みを返す――その様子から視線をはずし、康太郎は樹齢数百年では到底足りないだろう巨木の向こうに見える擱座した飛行機を見遣った。
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