第52話
さらにそのまま右足を逆方向にステップすると同時に腰をひねり込んで、ガラ空きになった男の右脇腹に左廻し蹴りを叩き込む――
力任せに叩きつけられた木製の鞘が砕け、細かな砕片が剥き出しになった刀身に纏わりついている――それを見遣って、ライは酷薄に目を細めた。
「やあこんばんは、お目醒めは快適かね?」
「おい――」 入口のところで控えていた兵士が剣を抜き放つのが、気配でわかる――ライはそちらに視線を向けないまま、
「いい――こいつらが逃げ出さない様にそこにいてくれ」 そう指示を出してから、斬りかかってきた賊に注意を戻す――この男が態勢を整えてふたたび攻撃を仕掛けてくる前に、もうひとりの男を抑え込まねばならない。
さて――
胸中でつぶやいて、ライは背後へと視線を転じた。
「死ね、クソガキが!」 逆側から襲いかかってきた賊が、罵声をあげながら手にした長剣を振るう。
そしてライの首を刈る軌道で振るわれた長剣の鋒は、何物にも触れる事無くむなしく宙を薙いだ――体勢を沈めてその一撃を躱し、斬撃の軌道の下側に潜り込む様にして賊の内懐へと飛び込む。
残念ながら――おまえらじゃ俺は殺せんよ。
ライよりも賊のほうがいくらか背が高い――ガラ空きの胴に低い位置から撃ち上げる様にして繰り出したショルダータックルの直撃を受け、体勢を崩した賊が踏鞴を踏んで後ずさる。
だが、逃がしはしない――まだ不十分だ。ただ間合いを取っただけでは、先ほど壁に叩きつけたもうひとりを始末するのに十分な時間が稼げない。ライは開いた間合いをふたたび詰めると、そのまま前に残った賊の左膝を右足の足裏で踏み砕いた。
「――っ!」 子供が癇癪を起こして踏みつけた小枝の様に左膝を可動域とは逆方向にふたつ折りにされ、賊の口から声にならない悲鳴があがる。
その悲鳴を適当に聞き流しながら、ライは蹴り足を前足にしてその内懐に飛び込んだ。
たがいの脚が交わるほどに深く――続けて鳩尾を狙って右肘を撃ち込むと、賊の口からほとばしっていた悲鳴が止まった。鳩尾に撃ち込まれた一撃で息を詰まらせながら、左脚を叩き折られた賊が背中から床に倒れ込む。
ついでに、右足も――
さらにそのまま床を鋒で引っ掻く様な軌道で手にした長剣を振るうと、無事な右足をなかばまで切断された賊の口が大きく開いた――しかし先の
両脚を破壊――とりあえず、これですぐには動けない。賊が倒れたときに手放した長剣の柄を蹴り飛ばし、床の上を滑る様にしてすっ飛んでいった長剣が壁にぶつかる音を聞き流しながら、ライは背後へと向き直った。
お仲間ともども受賞おめでとう――
続けて手にした長剣を水平に振るい、叩きつけられた壁から身を起こそうとしていたもうひとりの賊の首を刈りに行く。
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