第19話
§
「さて、雑談はここまでだ――仕事にかかろう」 そう声をかけると、にやついていたガラと完熟トマトみたいな顔をしていたメルヴィアが真顔に戻ってうなずいた。
まだ七十メートルほど先だが、大量の瓦礫が堆積しているのが視界に入っている――ここからでは比較対象が無いのでさほど大きく見えないが、実際には高さ十五メートル近い瓦礫の山だ――元がなんの施設であったのかは、今となっては知るよしも無い。
くだんの砦は二百メートル以上離れているし、ライたちは瓦礫の山のおかげで死角に入っているので、ここからでは発見される気遣いは無い――ただ瓦礫の山の陰を出てしまうと、そこからは視線を遮ってくれる遮蔽物がなにも無い。
ライは瓦礫の山から顔を出して砦の様子を窺いながら、
「俺が援護する。全員、北側の壁際まで走れ」 ライの指示に、残る全員の視線がこちらに集中する。
「ひとりずつ行ったほうがよくない?」 メルヴィアの質問に、ライはそちらに視線を向けてかぶりを振った。
「時間の無駄だ。俺は援護してくれる味方がいないからゆっくりいかなくちゃならんが、君らは単純に時間的に短いほうが確実だ――ひとりずつちまちまやってる間に、用足しに出てきた奴に発見される可能性があるからな」
そしてひとりでも始末したら、いつまでも戻ってこない仲間をいぶかしむ奴がひとりくらいは出てくるだろう――いかに深酒と油断で緩んだ頭だったとしても。
「俺の移動時間は仕方無いとして、全体の時間は出来るだけ短くしたい。多少甲冑がガチャガチャ鳴っても、向かい風だから気づかれる可能性は低いだろう。近づいたら速度を落として、あまり音が鳴らない様にしてくれ――敵に気づかれる可能性は低いだろうが、捕まってる奴らが騒ぐ危険があるからな」
そう続けてから、ライは北側の壁にある換気窓の前に足を置かない様にと彼らに言い含めた。ガラが用意した矢筒をメルヴィアに預けて瓦礫の山を掩蔽物に上体を露出させ、遠距離用の小さな鏃を備えた矢をコンパウンド・ボウにつがえて、
「出ろ――ばてる様な走り方はするなよ。行け」
その言葉に、真っ先にメルヴィアが物陰から飛び出す。ガラがそれに続き、残る兵士たちも次々と物陰から走り出た。
三十秒ほどで、全員が北側の壁際に到達する――真っ先に飛び出したメルヴィアで十三秒くらいだろうか。
残りの面々は重い甲冑を身に着けているということもあって、あまりスピードは出ていないが――まあ別に問題無い。
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