第52話
だが連中が
胸中でだけ舌打ちを漏らして、ライは左手で保持していたコンパウンド・ボウを左脇のケースに収めた。そのまま音を立てない様に注意して階段を駆け登り、登りきる前に足を止める。落差は約十八メートル、普通に突っ立っているだけでは絶対に視界に入らない位置関係ではある――だが先述したとおり階段上は構造物に遮られて
ここでは駄目だ。
ライはまだバケツの上に尻を置いていきんでいる賊の姿を一度確認すると、姿勢を低くして柵も手すりも無い階段から側面に身を乗り出した。
構造物の陰から身を晒すと同時に高度の低い
顔に吹きつける風に顔を顰めながら階段のへりに右手の指をかけ、壁面へ飛び移る様にして階段から身を躍らせて――続いて左手を階段の段の縁にかけ、ライは振り子の様に揺れる体を階段の端から吊り下げた。
体重を支える指が滑りそうになって、胸中でだけ小さく舌打ちを漏らす――なにしろ高さは二十メートルだ。ケースに納めたコンパウンド・ボウのために受け身の取れない今の状態で、二十メートルの高さから転落すればず助からない。
あまりこういった
右手を外側に動かしてさらに次の段との段差に近い位置までずらし、左手を引きつけてから、右手を段から放して次の段へ。
外壁には指をかけられる場所は無いので、なるべく壁上通路に姿を曝露しない様にするためにはこうやって登っていくしかない――普通に階段を登っていったら、壁上通路に人がいたり窓から顔を出している人間がいたら即座に存在が露顕する。
そのまま壁を伝って階段を登りきり、張り出した階段最上段のへりを伝って階段の構造物の角を南側へと廻り込む。砦の敷地の内外をつなぐトンネル状の出入り口は西側の壁を貫通する形で設けられているので、ここまで来てしまえば用を足して入り口のほうへと歩き始めたあの男が気まぐれで空を見上げても彼の視界には入らない。
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