第48話
だが多少暗くても、
単眼鏡自体はあまり近すぎると役に立たないが、ある程度距離が離れれば十分使うことが出来る。
フォーカス・リングを動かして焦点位置を調整すると、最初は輪郭がぼやけていた目標の姿がはっきりと視認出来る様になった――
見まごう事無き彫像の様に整いながら暖かみのある容姿、白磁の様になめらかな肌。
間違い無い――リーシャ・エルフィ・カストル・ディ・アルランディア、アーランド王国第一王女だ。見たところ服装の乱れや、外傷などの痕跡は見られない。
扉の前に立ってはいるが、こちらに気づいた様子は無い――彼女が不注意なのではなく、なにかが気になるのかこちらを見ていないからだ。話し声や息遣いが聞こえるから、ほかにも誰かいるのは間違い無い――つまり、ほかの牢獄に幽閉された者たちに注意を向けているのだろう。
一応確認はしておくか――胸中でつぶやいて、ライは周囲の様子を窺った。そのまま壁沿いに南側に移動して、もうひとつの換気口の前で足を止める。
ふたたび身をかがめて換気口から内部の様子を窺うと、手前の牢獄越しに通路をはさんで向こう側の牢獄が視界に入ってきた――手前の牢獄にも人はいるらしく、人の気配や息遣いが感じられる。
壁の厚みが原因で、手前の牢獄の内部の様子は窺えない――筒を覗いている様なものだからだ。
奥の牢獄も低い位置が視界に入ってこないので、様子はわからない――少なくとも立っている人間はいない。
横になっているだけなのか、死んだり重傷を負って動くことが出来ないのか――現時点では前者の可能性が高い。奥の牢獄も隣の王女の獄と同様鎖を巻きつけ、その両端を留める形で施錠されているからだ――そもそも拉致のターゲットが王女ひとりである以上、牢獄の数と同じ数の監禁資材など必要無いはずなのだが。
あるいは人質である彼女をおとなしく従わせるための脅迫の道具として、侍女なり負傷した兵士なりが必要だと思ったのかもしれない――連中としても金を引っ張るまではリーシャ・エルフィを傷つけるわけにはいかないだろうが、彼女の従者ならいくら切り刻んでも問題無いからだ。
わざわざ錠前や鎖を複数用意する理由となると、それくらいしか思いつかない――この世界の工業製品は技術レベルの低さが原因で不良率が高いので、
鎖を牢獄の数だけ用意するのは、ひとつの牢獄に対する囚人の数を出来るだけ少なくするためだ。一室に監禁する人間の数が少ないほうが囚人は叛乱を起こしにくく、また抵抗しても鎮圧が容易い。
結局予定が変わったのか、あるいは最初の強襲で思ったほど生き残りが出なかったからかもしれない――なんにせよ、当初の予定とは違う使われ方をしているらしい。
とまれ
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