第45話

 確認しなければならないのは、ふたつ――


 一、救出目標パッケージである王女リーシャ・エルフィの所在と無事

 一、敵の総数と状況、特に重要なのが地下牢直上の室内に何人いるか

 

 ひとつめはリーシャ・エルフィを人質に取られたり、あるいは殺されたりしてはならないということだ。彼女を助けに来たのだから、まあそれは当然だ。

 ふたつめは、それをさせないために敵の配置を把握しておく必要がある。

 正直に言えば、広場で焚き火を囲ってどんちゃん騒ぎをしている連中を制圧するだけならばライひとりでもどうにかなる――ライのコンパウンド・ボウの射撃には、人間ひとりの体を骨ごと貫通して別な人間の体になかばまで突き刺さるほどの貫通力がある。命中箇所によっては三人以上――数は多いが、彼らが襲撃者の大雑把な位置を把握して分散するまでの間に何人か仕留められれば、あとはどうとでもなる。

 一番厄介なのはライがメルヴィアたちのところまで引き返してもう一度ここに戻ってくるまでの間に、賊たちが兵舎なり物見塔なり救出部隊の視界に入らない場所に移動していた場合だ。広場でどんちゃん騒ぎをしているチンピラどもをぶちのめすまではいいが、それで気を抜いて兵舎内に隠れている連中に不意討ちを受けたら目も当てられない。

 ライがこの砦を離れ、もう一度戻ってくるまでの間に広場に、あるいは直上の室内にいる敵がほかの場所へ移動するのを防ぐ方法は無い――したがって、砦を離れている間に誰がどこへ移動したかを確認する方法も無い。

 リーシャ・エルフィの監禁場所にもよるが、それ自体は特に問題無い――ただ戦い方が変わってくるのだ。

 敵の総数は三十人――まあ全員が襲撃現場に出払ったわけではないとして、四十人と仮定しようか。

 こちらの人数は兵士シーヴが八人、勇者シーヴァがふたり。

 アーランド王国軍はさほど強いとは言い難い――そもそもここ数百年来、エルディアとの農地目当ての小競り合い以上の大規模な戦争を経験していないからだ。

 国王デュメテア・イルトは徴兵制を採用せず、能力主義に基づいて志願兵からなる士気と練度の高い職業軍人のみで構成された直轄軍を編成しているが――やはりいるのは否めない。それはデュメテア・イルトのせいでも兵士たちの責任でもない――やはりどんなに訓練を積んでいても、実戦の機会が無ければ刃はなまる。それはライ自身だって似た様なものだ。

 だが今回同行してきた八人の兵士たちは、アーランド王国軍の最精鋭部隊の中でもさらに選りすぐりの精兵せいびょうのはずだ――なにしろ近衛兵団ロイヤルガード、国王に随伴して彼の身辺警護にあたる騎歩混成部隊の隊員なのだから。

 ライは騎兵百と歩兵百五十、合計二百五十人からなる警護チームのうち、歩兵八名を借り出した。

 ライの元を訪れていた国王デュメテア・イルトは用件そのものはほぼ終了していたため、ライの帰還を待たずに王都に戻る――騎兵部隊の隙を補うのに不可欠になる歩兵の数を大きく減らすわけにはいかなかったので、借り出せる人数はそんなものだった。

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