第15話
棒状の炭の塊をシャベルの刃先で突いて砕き、灰ごと刃先で掬い取る――軽く揺すって灰を落としてから、ライは掬い取った炭の欠片を円筒形のブリキ缶の中へと落とし込んだ。もうひとつの炭の破片も同じ様にして缶の中へと落とし、中を覗き込んで落とした炭が缶の中で中央に寄っているのを確認する――炭の欠片がいずれも缶の内壁に触れていないのを確かめてから、ライはシャベルの刃先で竈の中の灰を掬い取った。
灰になかば埋もれた炭の欠片を埋める様にして新たな灰を缶に流し込み、缶を軽く地面に叩きつけて嵩を減らしてからふたたび灰を詰めてゆく。二、三度その作業を繰り返してから、ライは立ち上がって川岸まで歩いていった。
頭上に空が開けて時間の限りはあるものの日照があるからだろう、川の両岸にはさまざまな植物が茂っている――コメの二期作が可能なほど平均気温の高いこの地域は植物が寒さで枯れてしまうほど気温が下がらないので、これらの草は年中見られるものだった。
背の高い麻の仲間の葉っぱを適当に毟り取って竈のところまで戻り、表面を均した灰の上に敷き詰める様にして葉っぱを詰めてゆく――ぎゅうぎゅうに詰めた葉っぱの上から缶の中蓋を、さらにその上から外蓋を取りつけてから、ライは缶の外側の灰を乱雑に拭って横に置いてあった巾着袋に入れた。かなり寸法をきつめにこしらえた巾着袋の口を絞ってから、不用意に開かない様に紐を軽く結わえつける。
小脇に置いた鞄の中に巾着袋を入れてから地面に突き刺したままにしていたシャベルを手に取り、ライはふたたび立ち上がって川まで歩いていった。
四角形の刃先を水に浸してこびりついた土や灰を洗い流し、ライはシャベルを折りたたんでプラスティックとナイロンを組み合わせたポーチにしまい込んだ。
岸辺でかがみこんで手を水に浸し、肌を汚す木灰を洗い流す――入念に手を洗い、ライは手首を振って水気を振り払った。植物性燃料の灰はアルカリ性で殺菌能力を持つために洗濯などの際には有用ながら、手などに附着した灰の汚れをそのままにしたり衣料品のすすぎが不十分だと肌荒れの原因になる。
続いて焚き火のところまで引き返してミドルクッカートレックを手に取り、再度川岸に取って返す――ミドルクッカートレックはまだ内容液に熱が残っていて熱かったが、素手で持てないほどではない。
底のほうにいくらか残った内容液を一度棄て、代わりに水を汲み取る――たっぷり水を汲んだミドルクッカートレックを手に竈のところまで戻ると、ライは焚き火を見下ろした。
すでに焚き火は燃料がほぼ燃え尽きて、鎮火しかけている――完全に鎮火するまで放っておくことにして、ライはミドルクッカートレックを竈の縁に置いた。
代わりにふたたび取り出した串の一本で灰を掻き回し、燃え残った炭の塊を空気に触れさせておく――灰の中に埋もれてしまうと、炭はいつまでたっても燃え尽きない。
自宅から持ち出した携行食糧は先ほど食べたのと同じベーコンが残り三分の一、胡椒を使っていないベーコンが一塊、あとはチーズの塊とトマトなどの野菜や果物の干物が数種類。
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