第19話
誘導殺傷もまた読んで字のごとく、拠点を守るために設置していると見せかけた罠で敵兵を誘い込み一網打尽にするものだ。
無論、トラップ自体は本物だ――違うのは拠点防衛のためのものではなく、拠点を守るためのトラップであると思わせて敵を十分奥まで引き込むためのものであるということだ。強いて言うなら、ほんのちょっぴりあからさまにして発見されやすくすることだろうか。
トラップを躱しながら拠点とおぼしき天幕の近くに敵兵がたどり着いたときには、すでに彼らは特大の罠に嵌まっている――実はその天幕の中には誰もいない。彼らが通り過ぎたあと、その移動経路に仕掛けられ彼らが解除したトラップはふたたび仕掛け直され、さらに追加のトラップが大量に設置されている。そして十分に彼らが奥に入り込んだ時点で、拠点の設営地の周囲にひそんでいた兵士たちが集中砲火を仕掛けるのだ。
罠にかかった敵兵たちは斃れ、運よく逃げ出した者も解除したはずのトラップや見落としていた――実際には追加で設置されていた――トラップにかかって足を止められ、さらに別動隊による十字砲火に加えて追いついてきた者たちの追撃で三方向からの攻撃を浴びせられて、悲惨な運命をたどることになる。
この場合はいずれも出来ない――川の中に罠を仕掛ければ敵に川伝いに逃げたと教えている様なものだし、下手に罠を仕掛けるとエルンで唯一の狩人であるライが一緒にいることを勘づかれる可能性もある。ライは効果的なトラップを――対獣用、対人用を問わずに――いくつも知っているが、アーランド兵はそうではない。下手に凝った罠を仕掛けると、馬脚を現すことになる。
そういったことを説明しようかとも思ったが、やめておく――こと戦いに関するノウハウは、必要以上に彼らに教えるべきではない。ライ自身が彼らと事を構える事態になったときのことを想定すれば、彼らに余計なことを教えて自分がその餌食になるリスクを冒すことは無い――アメリカ軍やイギリス軍だって、かつて
シリアにしろ
一度あれだけ散々な目に遭ったのだ。二度同じことを繰り返そうとは思わないだろう――ライがドナルド・トランプの立場でも同じことをする。やばくなったら誰かが助けてくれると学習してしまっているから問題が起きるたびに毎回泣きついてきて鬱陶しいだろうが、まあ鬱陶しいだけのほうが武器を手に牙を剥いてくるよりは扱いが楽だ。少なくともあまりに鬱陶しくなれば、過激派もろとも吹き飛ばすことが出来る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます