第29話
「ああ。生地も光を反射するし、途中で食べた肉の匂いが残ってるかもしれない」
「俺たちの誰かも一緒に行ったら駄目か?」
「やめたほうがいい」 外套に土をなすりつけながらそう聞いてくる兵士に、ライはかぶりを振った。手近な雑草を毟り取り、それをぐちゃぐちゃに潰して汁を袖に塗りたくりながら、
「甲冑は目立ちすぎる――多少の光沢消しをしても、近づいたら見つかる。それに人工物の曲線は発見されやすい――甲冑を着たままで偵察をするには、今夜は明るすぎる」
人間が
自然界に存在するほとんどのものは規模の大小こそあれ、ぎざぎざの山型で構成されている――たとえば山の稜線、遠くから見た森の輪郭、繁みの輪郭。
その中に丸みのあるもの、艶のあるものが紛れ込んでいると、驚くほどに目立つものだ――特に金属の光の反射は、果実や木の葉などの表面に形成される蝋を主成分とした
まあそれでも、一晩中太陽が沈まない夜に比べればいくらかましだがな――胸中でつぶやいて、ライは今度は脚絆に土をなすりつけ始めた。
エルンには太陽がふたつある――エルンと現地民が呼ぶこの大陸が存在するこの星は
ライは手を伸ばして、年嵩の兵士が差し出してきた外套を受け取った。ライの衣服は普段であれば狩猟のときに着るもので、胴衣と脚絆と外套いずれも茶色を主体に緑と黒を斑点状に染み込ませて着色してある。
周囲に溶け込むための
ただしパターンそのものは迷彩二型に似ているが、ライの迷彩服は茶色を主体にした秋用のものがモチーフになっている――ライが狩猟を行うこの樹海は気候の関係でほぼ常緑樹で占められているが、繁みがあまり無いので背景に木の幹しかなく、全身を春夏系の緑の多い配色にしても役に立たないからだ。この樹海は日当たりのいい一部を除いて緑色が見られるのは地面や木の幹に生えた苔だけなので、
全身に念入りに土と草の汁をこすりつけたところで、ライは満足して手を叩いた。口元を覆う覆面を鼻を覆う高さまで引き上げてから周りの連れを見回して、
「じゃあ行ってくる」
「本当にひとりで大丈夫?」 心配そうに眉を寄せて、メルヴィアがそう聞いてくる――自分がいなくて大丈夫かという意味でもなければ、言葉通りにひとりで大丈夫かという意味でもない。
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