第13話
「――イ。ライ?」 肩にポンと手を置かれて、ライはそちらに視線を向けた。気づかないうちに考え込んでいたらしく、メルヴィアが手にした肉を食べるでもお湯を飲むでもなく黙り込んだまままるで反応の無い相棒の顔を覗き込んでいる。話の途中で黙り込んだからだろう、兵士たちもなにやら妙な顔をしながらこちらに視線を集中させていた。
「どうしたの? さっきから変だよ」
「……ん、ああ。すまない、なんでもない」
どうやら思った以上に長い間考え込んでいたらしい――視線を落とすと、手元の竈の中の焚き火に
今考えても、仕方が無いか――胸中でだけつぶやいて、ライはかぶりを振った。
明らかに疑っている様子で、メルヴィアがライの顔を横から覗き込んでいる――眉根を寄せて唇を尖らせているのは、答えの出ない考え事の内容を打ち明けて相談をしないことに不満をいだいているときの顔だ。
「俺もちょっと考えがまとまってなくてな――あとで話すよ」 と返事をしたのは、彼女の不興などこうむりたくはないからだ――この褐色の肌の少女は単なる仕事上の相棒よりも、もっと身近な存在だ。自分以外でもっとも信頼の置ける相手であり、そばにいなくてはならない間柄でもある。
「しかし現場にたどり着いてみれば、賊の推定人数は三十人強か――近隣の領境警備隊に支援を要求するべきだったんじゃないのか?」 随行する歩兵八人の中でもっとも古株らしい兵士の言葉に、ライはそちらに視線を向けた。
アーランドは周辺の治安維持や即応にあたる王家直轄領であれば国軍、貴族領であれば領軍の部隊が各地に駐屯しており、叛乱や一揆、外敵侵攻等に備えている。彼が言ったのは、そこから兵員を借り出せないかということだろう。
たしかにそれはそうなのだが――そんなことを考えてから、自分の考えを自分で否定する。
人数が多いに越したことは無い――が、大事なのは指揮系統がしっかり機能していることだ。同じ組織の中で所属が異なるというだけならまだいい――陸軍の中の
これが陸軍と海軍となると、縄張り意識や相手との対抗意識などによって連携に齟齬が生じてくる――この近隣は王家直轄領なので兵員を借り出すとしたら国軍兵なのだが、やはり駐屯兵は国王の身辺警護に当たる
無理に一緒に行動させてもおたがいに対する競争意識や区別意識がありすぎて連携が取れないだろうというのが、ライとデュメテア・イルトの共通した見解だった――もう少し時間があれば打ち解け合わせて信頼関係を構築することも出来るだろうが、あいにく今回はその時間が無い。
それに少数には人手が足りないというデメリットはあるが、意思決定と行動が早いというメリットもある。複数の国や部隊から人員を割かれた混成部隊の場合、主導権争いが生じて行動をもたつくこともある――戦力増強を目的に人員を増やした結果、それ以上にトラブルの種が増えたら目も当てられない。
「指揮系統の違う部隊の混成部隊を編成するとろくなことにならんよ――イーグル・クロウ作戦もそうだった」
「いーぐる……なんだ?」
「イーグル・クロウ――俺の世界の言葉で鷲の爪だ。みっつかよっつの部隊の混成部隊を編成して在外大使館占拠事件の対処に当たったんだが、指揮系統が混乱して最終的に失敗した」
一九七九年十一月に発生した在テヘラン米国大使館占拠事件の救出作戦の名称を、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます