第8話

「ガンシュー・ライとシーヴァ・ディー・メルヴィアも参加してくださるのか」 八人の兵士の中で二番目に年嵩の兵士が、ライの言葉にそんな質問を投げてくる。

「そりゃあ、あんたたちが働いてるのを横でぼさっと見てるわけにもいかないさ――俺も仕事する前提で報酬提示されてるしな。それに射撃戦力がいないだろ――おおゆみじゃ速射性に欠ける。第一、仮にも国王直々の依頼だぜ――専門外の傭兵仕事とはいえ、技術を買われて参加してるんだ。成果無しじゃ戻れんよ」 ライはそう返事をして、親指でぞんざいに一方向を指し示した。

「このまま順調にいけば、じきに目的の山砦に着く――そのころには大部分はもう寝こけてる頃合いだろう。みんな寝ついてればそれでよし、まだ起きてる様なら連中の動向を見定めて作戦を決めよう。お姫さんを無事助け出せたら砦で一晩過ごして、翌朝出発すればいい――シャラが残ってれば馬車シャラ・ファイが使えるんだが」

 喰われてるかもしれないしなぁ、というライの言葉に兵士たちが一様に顔を顰めた――シャラというのはこの世界に棲息する、馬に似た生き物だ。

 シャラに限らず、地球に野生で存在する生物の大半はこの世界にも棲息しているらしい――といってもライが知る限りでのことではあるが。

 シャラに限らずライが元いた地球に生息していた牛や鹿や羊、山羊に似た生き物もこの世界には存在する――家畜化がされていないために豚や犬、猫は存在しないもののそれらの原種であるファイスカラン山猫ヒャーイは地球に存在する猪や狼、山猫とほぼ同じ形態で棲息している――山猫ヒャーイがやたらと人懐っこかったりして、習性まで地球の同種とそっくり同じわけではない様だが。

「ときにガンシュー・ライ」 腰の雑嚢から取り出したチーズの塊を齧っていた若い兵士が、そう声をかけてくる。

「ん?」

「さっき見つけた、あの黄色い鉄の箱――?だったか、あれはなんなんだ? あんたは知ってるみたいだったが」

 ライはその質問にうなずいて、

「あれは俺が元いた世界の乗り物ファイだ」

乗り物ファイ? ……近くにシャラはいなかったし、蹄の跡も残ってなかったが。あの箱は鉄で出来てたみたいだが、どうやって動かしてるんだ? シャラをつなぐ部分も無かったし」

「牽引する人間や動物は要らないんだよ――あれは自力で動くのさ」 という返答はどうにもピンとこない様子ではあったが――彼は気を取り直して、

「否、聞きたかったのはあれだ、あれはつい最近飛ばされてきた漂流物ガンシーだよな?」 兵士の言葉に、ライはああとうなずいた。彼が聞きたいことは想像がつく。

「あんたが箱の中を調べてるときにちらっと中を見たが、椅子がたくさんあった――あの椅子の数と同じだけの漂流者ガンシューが、ほんの数時間前にこっちに来たんじゃないのか」

「かもしれん」 ライはうなずいて、

「でもそれはこの作戦には関係無い――せいぜいがあんたらの国王に報告して、判断を仰ぐくらいだ。もし一緒に囚われてたら、お姫さんと一緒に王都まで連れて帰ってくれ。あとは俺は知らん――仕事を妨害さえしなければな」 そう続けてから、ライは焦げ目のついた燻製肉を手にとって焼け具合を確かめた。二本の串で刺された肉から熱で熔けた脂がしたたり落ちて、炭の上で燃え上がる。

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