第67話 フレンチ
一瞬の沈黙の後、真柴の爆笑が車内に響いた。
「お嬢よりも、腹の虫の方が正直だな」
あたしは耳まで真っ赤になりながら、窓の外を見つめ続けた。
何でこんな時に!
「で、何が喰いたい?」
恥辱に勝った食欲は、さっきよりも大きな”声”で応える。
「グウゥー」
今すぐにドアを開けて、外に飛び出したい衝動を抑え
必死に考えを巡らせる。
落ち着くのよ、美月。ある意味、これはチャンスなのかもしれない。
正面きって尋ねても、真相を語ってくれない真柴でも
和やかな雰囲気でお食事すれば…
もしかしたら気が緩んで、話してくれるんじゃないかしら。
都合よく気持ちを切りかえると、笑顔で真柴の方に向き直った。
「美味しいフレンチが戴きたいわ」
「フレンチか…この間は、気もそぞろで喰った気がしなかった
だろうからな」
「この間…?」
あっ!
真柴を婚約者と紹介された日の事を思い出し、納得した。
何故、咄嗟に”フレンチ”が浮かんだのかを…
暫し、思案していた真柴は、おもむろに携帯を取り出すと
電話を掛け始めた。
「真柴だ。
今からそっちに行きたいんだが、席は空いてるか?」
どうやら、どこかのお店に掛けているらしい。
「…ああ、2人…えっ?」
言葉を切るとあたしを見ながら
「そう、とびっきりの
じゃあ、急で悪いが宜しく頼む」
電話を終えると、車のエンジンをかけた。
「どこに行くの?」
「お嬢様のご要望通り、最高級のフレンチレストラン」
そう言って、車を走らせた。
自信ありげな笑顔が癪に障る。
あたしは視線を窓の外へと戻した。
お手並み拝見といこうじゃないの!
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