第16話 階段なんて認めない

「間一髪でしたね、リーダー」


「ああ、何とか上手く撒けたが…… って、何、いつの間に俺がリーダーなの?」



 暑苦しいスキンヘッドのタピオカもといキャッサバが肩を叩いてくる。



「聞いてなかったのか? フェデリアさんが言うには全ての責任を負う覚悟はあるから俺に任せとけと湊が言っていたと聞いたんだが」



 ちらりと嘘つきジジイの方を見れば、念入りに帽子を直している。

 いや、何知らん顔してんだ? 勝手に俺に全責任を押し付けやがったなコイツ……



「あ、見えて来たぞい。 あれが二階へと続く階段なんじゃないのかのう」



 こいつ、話をすり替えやがったな。


 段ボールの隙間から覗けば確かに階段が左に見える場所まで来ていた。

 きっとこれを昇れば二階へとたどり着くはずだ。


 いざ、階段へ。


 ぎゅむ。


 ん? 


 ぎゅむ。


 まさか、この箱階段の幅よりでかいのか?


 そろりと段ボールを上げて見て見れば確かに幅が当たって挟まっている。


 これはまずい。

 無理矢理押し込んで進めばなんとかいけるとは思うが、如何せん一人は外へと出なければならない。

 もし、ここにあの浮遊機や人がやってきたら一発でアウトだ。



「リーダー。 あっちにはエスカレーターがありますぜ!」



 罠担当のブラウスさんがにやけた笑みを浮かべる。

 皆リーダー呼びが定着し始めている。


 エスカレーター。 この世界にもあったのだと驚いてはいるものの、機械が発達している世界だ。 あってもおかしくはないだろう。


 人気のない廊下を左右を確認しながら進む。


 するとブラウスさんが見つけたとされるエスカレーターが目に入った。


 だが、これは……



「完全に一人ずつ乗る用じゃな……」



 まさかの一人用。 そう、あの細いエスカレーターだ。

 もし、こんな物に乗って二階に行ってみろ、大勢で、対向からエスカレーターに乗ってる人に「あ、どうも~」って挨拶せにゃあかんのやぞ!!


 逃げようにも詰まって逃げれなくなるのがオチだ。



「エスカレーターは無しだ」


「リーダー。 あっちにはエレベーターを見つけたぞ!」



 お前もか、ダージェフ。

 照れるな! ちょっと嬉しそうにするな!


 またもや隠れながらそのエレベーターへと近づく。


 そこには最新鋭のエレベーターではなく、あきらかに人が乗る為のエレベーターではない業務用のエレベーターであった。


 明らかに入り口が小さく、荷物程度の物しか乗らないタイプの物だ。



「乗れると思うか?」


「無理ですね!リーダー!」



 だよね。 却下です。



「リーダー。 あっちにはトランポリンが!」


「うん。 見に行く必要はないな!」



 トランポリンがあったところでうん、ちょっと楽しそうだよねっていう感じにしかならんわ!

 それともそれを使って二階へといけというのか? 

 それなんていうSASUKEなん?


 となると、やはり最初の階段を使って行くしかないか……


 そろそろと最初の階段の所へと戻ると衝撃の物を目にする。



「ペ、ペンキ塗りたて…… だと!?」



 先程まで無かった張り紙が階段の壁に貼られている。

 そういえば先ほどまでの階段の床の色がわずかに変わっている。


 なんという不運。


 これでは足跡がモロバレになるではないか。


 それに今さっき張られたという事はこの階段の上にペンキを塗ってる人が少なからず一人はいるのだ。


 どうする? もはや、エスカレーターでこんにちわをやるしかないのか……



「焦っていますね、リーダー」



 ふふっと不敵な笑みを浮かべて笑うブラウスさん。



「こんなこともあろうかとナイフを持ってきて正解でしたぜ」



 一体何を……


 唖然としている俺を置き去りに徐にブラウスさんは段ボールをナイフで切っていく。 そしてそれを手早く組上げていく。

 その職人技に誰もが見惚れていた。


 あまりの手の速さに思わず息を呑む。


 しばらくして出来上がったのは、段ボールでできた梯子だ。


 お前はワクワクさんか!!


 いや、一仕事したみたいな顔をするな! おま、これどうするんだよ俺ら隠れられないじゃん!!


 大きな段ボールを使ったアートとも呼べるこの作品を何故、今この状況で作った……



「まぁ、見ててくだせぇ」



ブラウスさんはその梯子を持って、意気揚々と階段の中央の吹き抜けへと梯子を掛ける。 ちょうどこの階段は囲うようにできていたため掛けられたのだが……



「これで階段を踏まずに進むことができるぜ」


「さっすがブラウスさんだぜ!!」


「やはり罠担当は一味違うぜ!!」


「やめろよっ、照れるじゃねぇか」



 皆思い思いの賛辞の言葉を述べているが気づいているだろうか。

 これ、結局一人用のエスカレーターと変わらないんじゃ……


 もはや段ボール誰一人として被っておらんし。



「そうと決まれば、さっそくこの梯子をたくさん作らねぇとだな!!」



 ブラウスさんは機嫌よく、残りのラッピングされていた可愛い段ボールを梯子へと見る見るうちに変えていく。


 気づけば目の前にはかなりの長さになった梯子ができあがっていた。



「んじゃ、これを掛けてと…… よし、じゃあフェデリアさん!! 行ってくだせぇ」


「え、儂なん?」


「もちろんでさぁ、すげぇ力をもったアンタが先頭に立って進むのが士気があがるってもんよ」


「そ、そうじゃな!」



 頷いた神父ジジイは梯子に手をかけ登っていく。


 中腹まで登ったその時だった。


 べきりという音を立てて段ボールの梯子はへし折れていく。



「おぼぉあっぁああああ!!!」



 真っ逆さまに落ちていくジジイ。


 まるで天へと上る為の蜘蛛の糸を切られた罪人のよう。


 激しく地面へと叩きつけられ、苦悶の声を漏らす。



「よし、皆エスカレーターで行こう」


「「「「「おうっ!!」」」」」



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ヒロインが爺さんなんて認めない! 犬威 @inui0313

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