喫茶店フォレスタ《本編》

うらひと

プロローグ

プロローグ

 楠くすのきでは、父親のじゆんが先に朝のたくをしていることが多い。

「おはよう、盾」

「おはようございます、はつさん」

 起きてきた初恵が、シンプルなエプロン姿の盾に声をける。

 かのじよの着ているパジャマは男物のような、うすい青をしたもの。

 そして口調こそ男のようにしっかりしているが、くすの立派な母親だ。

「良い朝だ。ちょっと軽く体操をしてきたが、これでまだているのがもったいないくらいだ」

「ふふ、そうですね」

「子供たちはまだているか」

「そうですよ、まだ6時ですから」

「ふふ、温かくなると起きられなくなるな」

「そうですね。ふふ」

 盾の友人である真に言わせれば、「ふたりとも話がぶれなくて、安心して議論が出来る」と、いままさに真の家で起きている出来事の、良き相談相手になっているようだ。

 森宮家がコーヒー好きになったのも、盾と初恵のえいきようだ。


「おはよー……」

 子供たちの中で真っ先に起きてきたのが、末っ子で長女の京子。

 口調こそ男っぽいが、名前通り立派な女の子だ。

 かのじよが主張するには、大好きな母親をまねたと言うらしいが、当の初恵は「びしているようでわいいな」とあまやかすだけだという。

「あとの2人は?」

ようすけは起きてるけどえ、どうせ長い。美月は昨日おそくまでイラストいててそく

 ずけずけと物を言う京子に盾でも手を焼くことは多いが、はんこうねんれいでも親子関係は良好だ。その京子が言い終えると、次はごげんな声が下りてきた。

「おっはよー!」

 元気に手を挙げ、わいらしいだんえたにしてはフリフリの多い服、というよりこれは『しよう』とした方が良いだろうか。

ようすけさん、今日もおれいで」

「ありがとー」

 そう呼ばれた陽介は、聞かれれば自覚としても『男だよ?』と主張する。周りからは『オカマ』だと言われるが、それも意にかいさず、初見の人に女の子だとかんちがいさせて遊んでいるという。両親もすがにそれはとがめてはいるのだが、『それが陽介らしさだから』と苦笑いするだけで済ませることも多い。

 そして、盾が陽介とも話を終えるころには、初恵が美月の部屋に内線電話をかけて呼び出していた。

 おくれて、ぱたぱたと下りてくる足音。

「お、おはよ……」

「美月、もうそろそろパンが焼けるぞ」

「はーい。……ふあ」

 かれこと美月は、初めての子供に、らしくなくがった盾達が、ちがえてこの名前で出生届を出してしまったため、本人もそれを名乗らざるを得ない。毎度美月はずかしがるが、顔立ちまで女の子らしくなってきたため、半ばあきらめ始めている。


「陽介、動かないで!」

おおせのままに」

 朝のきつてんフォレスタでは、美月のデッサン大会が開かれていた。

 もちろんちゆうでもその時間で中断する、という約束で。

「やはり、あのふたりはああしているのが良いですね」

「ああ。でも、京子は不服そうだが」

 カウンターで開店の準備をするのは両親の盾と初恵。

「京子も着る?」

「オレはやだ!! かついい服が良い!!」

「美月、今度また京子の服選びに行く?」

ぼくは別に構わないけど、自分で選びたいもんでしょ?」

 声だけ聞くと全員女性に聞こえる3人の会話。盾以外で一番声が低いのが初恵だと言うと、知り合いにはおどろかれたようだ。

 ていねいで初恵に付き従う副店長の盾、男装もこなす店長の初恵。そして、アルバイトで女の子として手伝う陽介、イラストをかざる美月、少し年がはなれて簡単な手伝いをする京子。

 これは、そんな喫茶店の「ひとり」達の話。

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