phase03 アンダーグラウンド・ブルース

03-01 シムと悠真

その日は、台風一過の後の最初の青空の日だった。真夏の太陽が照りつける街中を、小寺悠真は紙袋を抱えながら歩いていた。

「あっちい……」

彼のうなじはじっとりと汗に濡れていた。空いている片手でどんなに汗をぬぐっても、汗は溢れ出るばかりだった。ああ、こんな日にはクーラーがキンキンにきいた部屋でアイスコーヒーでも飲みたいなぁ……悠真が買ったものでパンパンに膨れ上がった茶袋を両手で持ちながら、そう思った時、後ろから急に肩をポンポンと叩かれた。

ひゃあっ! 」

あまりの突然の出来事に驚きの声を上げた彼がゆっくり振り向くと、小洒落た格好の見知らぬ若者がニコニコ笑っていた。

「誰……?」

悠真がそう言うと、彼は自分を指差しながらこう言った。

「俺の事、覚えてないのか……?俺だよ、俺」

「俺だよ、俺って……オレオレ詐欺かよ……たとえ見知った顔でも、名乗るのが礼儀だろ」

彼のそのツッコミに若者は苦笑しながらこう言った。

「ははは……そういうところ、昔から変わらないよな……わかったよ……俺は志村和久しむらかずひさ。H大学理工学部の一年です」

学校名まで紹介しなくてもな……と思いながら悠真は彼の名前について記憶を巡らせた。その糸をたぐりにたぐり寄せた末に、彼は一つの答えにたどり着いた。

「志村……え……シム?お前シムかよ……変わったから気づかなかったよ……」

シムと呼ばれた青年は飛び上がらんばかりに喜んだ。

「そうだよ……久しぶり……卒業式以来だな……」

「まさかここで会うとは思わなかったよ……」

「俺も……っていうか……本当にお前見た目変わってないな……」


***


シムこと志村和久と悠真の出会いは、彼等が高校生の時まで遡る。同じ高校の同級生だった二人は、クラスこそは違うものの、パソコン部の部員同士として出会った。悠真とシムは、同じ志を持った他の部員達と基本活動であるワープロ練習やプログラミングなどの活動、さらに部活の仲間で構成されるチャットグループーシムという呼び名はここでのハンドルネームだーでのチャットで青春を謳歌した。

「シリウス(シリウスは悠真がチャットグループ内で使っていたハンドルネームだ)……お前が元気そうでよかったよ」

「そういうお前も元気で安心したよ」

今年三月の卒業式以来、それぞれの道を歩いている二人は一気に高校生の顔に戻っていた。

「そうだ、ここで立ち話するのもあれだし、涼しいところで話さないか……あっちにいいコーヒーショップがあるんだ」

「そうだな……こんなところで話してたらゆでダコみたいになってしまうよな」

「じゃ、行こうか」

二人は仲良く連れ立って歩き始めた。

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