02-17 幸せ

数日後。了と沙耶は、またザイオンを訪れていた。

「んー……マスターの淹れるコーヒーっておいしい……」

「ははは、気に入ってくれてうれしいよ……」

あの日以来、沙耶はここが気に入ったのか、了を連れてここをよく訪れるようになった。コーヒーを飲みながら笑みをこぼす彼女の横顔を、了は愛おしげに見つめていた。スパイウェア事件が終結して以降、沙耶は以前よりもよく笑うようになった。まるで憑き物が落ちたかのように。


***


さて、話を進める前に、沙耶の兄でこの事件の元凶である仁がどうなったを書いておこう。あの後、取調室に連れてかれた仁は、上司達の懸命な取り調べの結果、自分が妹のデータを盗んでいたと認めた-この時、サイバー犯罪課が入手した証拠があるため、彼は認めざるを得ない状態だった-。彼は、闇サイトで入手したスパイウェア作成ツールを使って、ポムピーに偽装したスパイウェアを作成した。その後、妹の友達だと聞いていた武田了のメッセージアプリのアカウントを使って彼女に送った。仁はこれは、妹を守るためだから犯罪にならないと終始訴えたが、当然聞き入れてもらえず、彼は懲戒免職および、逮捕された。


***


さて、話を元に戻そう。

「そういえば沙耶、お兄さんには会ってるかい?」

了が沙耶にそう切り出したのは彼女が、コーヒーのお代わりを頼んだ時だった。

「うん……会ってるよ……」

彼女は空のスティックシュガーの袋を指で弄びながら伏し目がちにそう答えた。

「あの人……全然反省してみたいなんだ……」

「そうなの……?」

「あいつ……面会に来る度にさ、許してくれ、なんでもするからって、諂ってくるの……もうやんなっちゃう」

沙耶はため息をつきながらそう言った。

「そうか……それは大変だね」

了はコーヒーを飲みながらそう言った。

「大変だよ……了くんも一緒に行ってみる?すごい疲れるけど」

「いや、やめとくよ……」

「言うと思った……冗談だよ……からかってみただけ」

「はははは……ちょっと本気にしちゃった」

平和で健康的な恋人同士らしいやりとり。それは兄の影を恐れていた今までの沙耶ではなし得なかった事だった。

***

「おまたせしました……」

悠真がコーヒーを運んできたのは、二人のいちゃつきが最高潮に達した時だった。

「相変わらずラブラブだね」

悠真はそう笑みを浮かべながらコーヒーのお代わりをテーブルに置いた。

「まあね……」

沙耶はミルクをコーヒーに溶かしながらそう鼻を鳴らした。

「悠真くん、君には感謝してるよ……なにせ、君の力なしでは沙耶のお兄さんの悪事を暴く事はできなかったからね」

了がそう言うと、彼女は彼の腕に抱きつきながらこうう言った。

「解決できたのは小寺くんのおかげだけじゃないよ……了くんが、ここに相談に来なかったら小寺くんもマスターも気づかないままだった」

了は照れながらこう言った。

「ふふふ……そうだな……」

そんなラブラブな二人を見つめながら悠真が言う。

「今回のヒーローは、俺だけではなかったようだな……ちょっと悔しいけど……その座は了さんに譲ろうかな」

その目はとても優しかった。


(phase2.可愛いペットにご用心 fin)

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