02-16 白日



午前7時30分。

警視庁の本庁舎の入り口をくぐった伊能仁は、自らに向けられる視線がいつもと違う事に気付いた。

「……なんだ……みんな人の顔をじろじろ見て……」

たくさんの人々が、彼を見ていた。ある人は傍の人と顔を見合わせてくすくす笑い、またある人は軽蔑の眼差しを彼に向けていた。

「一体どういう事なんだ……?」

いつもの自信満々の態度はどこへやら、仁は縮こまりながら廊下を歩いた。廊下を進めば進むほど、彼をじろじろ見る人は増えていった。それらに見つからないように、仁は捜査一課のフロアへ向かった。


***


「おはようございます……」

捜査一課セクションに入った仁はいつも通りの態度を崩さず、同僚に挨拶をした。しかし、こちらもいつも違った。昨日までは、言われたほうも挨拶を返すのに、今日は誰も彼もが冷たい視線を向けるだけだった。

「伊能くん……」

手のひらを返したような同僚たちの態度に戸惑いを隠せない彼に、上司である高島刑事の重々しくも厳しい声が刺さった。

「な……なんでしょうか」

ビクビクしながら振り向いた仁に高島刑事は、こう言って、タブレットを見せた。

「これは……本当に君のなのか……?」

「っ……」

画面を見た彼は一気に顔面蒼白になった。それには、仁のタブレットに入っていた沙耶へのメールや、通話ログ、さらにスパイウェアを通じて入手した沙耶のデータが写っていた。

「庁内Wi-Fiにこれらを通したら、君が来る直前にアドホック共有サービスを使ってこのデータが私やみんなのスマホやタブレットに共有されたんだ……一通り見たんだが……君がこんな人物だとは思わなかったよ……」

「……怖いよ……怖い……」

パニックになった仁は涙目になりながら頭を抱えた。

「裏付け捜査はサイバー犯罪課の面々に任せてあるから、共に取調室へご同行願おうか……」

そんな彼に対し、高島刑事は冷静な面を崩さずに言った。すると、仁は顔を上げてこう言った。

「あんたそれでもぼくの上司なの……?あなたの可愛い優秀な部下がこんなに泣いてるのにっ……!」

お前みたいな子供のようなやつがいるか。そう思いながら高島は、他の部下に取り乱す彼を取り押さえるよう、指示した。

「ああっ!……助けてよ……金でもなんでも払うからっ……」

仁がそう叫んだ時、スーツのポケットに閉まってあったスマホが鳴った。

「もしかして……」

そう言って取ろうとした時、ポケットからスマホが落下して、床に落ちた。すると、部屋の中に合成音声で作ったような無機質な声が響いた。

「お兄ちゃん……自分の罪の重さをわかってくれた……? 」

激突したところが悪かったのか、スマホはスピーカーモードになっていた。

「もうこれでお兄ちゃんの人生終わりだね……それじゃさよなら」

そう言って電話は切れた。

「ああああああっ!!」

彼は絶望の叫びを上げながら、取調室へ連れてかれた。

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