02-09 駆け込み寺

木製のドアを開くと、カランカラン、という音と同時にいらっしゃいませーという声が聞こえた。喫茶店といえば、某コーヒーショップチェーンしか入った事がない了は、恐る恐るそこへ足を踏み入れた。


***


「……」

了は冷や汗をかきながら店内を見た。一目見たところは所謂普通の喫茶店と違いはなかった。

「どこにサイバー要素があるんだ……? 」

そうボソッと呟いていると、後ろから声がした。

「そこのお客様……ひょっとして相談に来たんですか? 」

びっくりして振り向くと、茶色いトレーを小脇に抱えた白シャツ姿の青年が立っていた。

「あっ……はい」

了はあたふたしながら答えた。

「そうですか……だったらあそこに座ってお待ちください。」

青年は、にこやかに笑って彼に席に座るよう促した。

「どうも……」

了は勧められるがままに席に座った。


***


しばらくした後、タブレットを持った青年が同じく店員らしき中年男性を伴って戻ってきた。

「お待たせしました……」

中年男性は、低い声でそう言って青年と共に了の前に座った。

「で……お客様……なんのご相談で……」

「……実は……」

了は二人の店員にさっきの事を話した。

「……」

彼の話を聞いた中年男性はこう言った。

「お客様……彼女さんはどうやら危ない事にさらされているかもしれません……」

「え……それって……」

「それは……」

中年男性は”危ない事”の詳細を語り始めた。


***


夕刻。沙耶は駅前で待ち合わせをしていた。

「遅いなあ……」

腕時計を睨みながらそう呟いていると、横から聞き慣れた声がした。

「ごめん……待たせたね……」

「お兄ちゃん……! 」

笑顔で手を振っていたのは仁だった。沙耶は手を振り返しながら彼と落ち合った。

「さあ、行こうか」

仁は沙耶と並んで歩き出した。


***


二人が向かったのは街中にある瀟洒なレストランだった。 今日はここで夕食を取る約束だったのだ。

「……」

沙耶は半ば居心地が悪かった。なにせこういう所は未だに慣れないからだ。彼女は仁と窓側の席に座った。

「沙耶の好きなものを頼んでいいからね……」

「うん……」

そう頷きつつ、沙耶はメニューを開きながらため息を吐いた。


***


「……」

沙耶は硬い肉と必死に格闘していた。思い切ってステーキみたいなやつを頼むんじゃなかった。そう後悔していると、仁がこう切り出した。

「沙耶……」

「はひ(なに)……?」

「この前君が僕からの電話に出なかった理由って……知らない男とスカイプしてたからでしょ……僕は知ってるんだからね……」

「⁉︎」

驚きのあまり、沙耶は咀嚼していた肉が気管に入りそうになった。

「……なんで……知ってるの……? 」

「お兄ちゃんにはお見通しなんだよ…………」

「え……」

「なんでも知ってるんだ……君がこの前男とデートした事も……そいつとのメッセージ履歴もね……」

そう語る仁の声は、静かながらも狂気に満ちていた。


(続く)

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