02-08 癒しと影

「了くん……」

次の日の昼。昼食をとるために大学の食堂で沙耶と待ち合わせていた了は、彼女と顔を合わせるなり、こう話しかけられた。

「どうしたの……」

沙耶の目は、これまでにない程キラキラと輝いていた。

「了くん、ありがとう……」

「え……? 」

彼女の口から出てきた唐突な感謝の言葉に、了は危うくコケそうになった。

「え……僕……なんかしたっけ……」

そう言うと、沙耶は眉をややひそめながらこう返した。

「忘れたの……? 昨日私をポムピーに招待してくれたじゃない……」

「へ……そうだったっけ……? 」

彼は頭をかきながらそう言った。

「覚えてないの……? 」

「……」

彼は、頭の中で必死に昨日の記憶を手繰り寄せた。だが結局思い出せなかった。

「っ……」

一瞬彼女に正直に言おうと考えたが、愛する人の悲しむ顔を見たくないと思い、了はこう答えることにした。

「ああ……送ったよ……半分寝ぼけてたけど……楽しんでくれて嬉しいよ

顔は微笑んでいたが、心の中は沙耶に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。彼女のために精一杯の嘘をついたことに。

「ごめん……沙耶……本当にごめん……」


***


「ポム太郎、ごはんだよー。」

沙耶がポムピーを始めてから二週間。彼女のポムピーである<ポム太郎>は順調に大きくなり、幼体の丸っこい姿から、丸い体に小さな手足が付いた姿になっていた。ポム太郎は沙耶がコマンドで呼び出した食事を嬉しそうにはむはむと食べていた。

「はあ……かわいい」

あまりの可愛さにため息を吐いてる彼女の横で、了は沙耶のスマホの画面をじっと見つめていた。

「あのさ……」

「どうしたの……? 」

彼はポム太郎を指差しながらこう言った。

「こいつ……なんか……大きくなるの早くないか……」

「え……そうかな……」

「僕の場合、自分のポムピーが、ここまで育つには1ヶ月位かかった……」

「へえ……了くんのが1ヶ月かかったっということは……私は早いほうなのかな……」

了はそううれしそうに話す沙耶の横顔を、心配そうに見つめることしかできなかった。


***


「どうしよう……」

了は沙耶にいつ本当の事を言おうと悩んでいた。突然自分名義のアカウントから届いたとい招待メッセージ。さらにわずか1ヶ月足らずで成長するポムピー。そう、どう見ても怪しいのだ。これは危険なやつかもしれない。そのことを彼女に伝えるためには、真実を言うしかない。でも、沙耶に嫌われたくない。彼女を守るべく真実を伝えるか。それともその愛しい笑顔のたために嘘をつき続けるか。それは彼の目下の悩みだった。

「はあ……」

ため息をつきながら家路を辿っていると、ある看板が目に入った。


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それがかかっているのは、電気屋の店先ではなくて喫茶店らしき店の入り口だった。これだ。そう思った了はすぐにその店の扉を開けた。


(続く)

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