02-06 夕暮れのコール




新はコンピューターのモニターの方向を向いた。

「……っ」

彼は困ったように息を吐きつつ、こう呟いた。

「リリイ……」

すると、コンピューターに接続されたモニターがぱっと明るくなり、その中で緑色のロングヘアの少女がこちらをじっと見ていた。彼女は銀縁の眼鏡を抑えながらこう言った。

「井深さん、今我々サイバー犯罪課がこうやってつつましくも部屋をもらえている事は幸運な事ですのよ……感謝なさい」

「……」

なんで高圧的なんだ。新はそう思った。VHIの人格パラメータは、製作者の趣味で決められる事が多いらしいが、どうしてうちのVHIはこう上から目線なんだ。それは、彼がサイバー犯罪課に来てからずっと考えている事だった。



***


モニターの中にいる少女ーリリイーは上層部から備品として与えられているコンピューターのOSーだ。この妙に高飛車なお嬢様口調で話す彼女は、検索やプロファイルなど捜査に欠かせない存在なのだ。

「ソフトのくせに……」

新は思わずそうボソッと呟いた。根っからのアナログ人間を自負している彼にとってOSもソフトウェアも同じようなものだった。



***


プルルルル……

「……」

夕暮れの公園で気だるげなコール音が二、三度鳴った後、プツッと切れた。仁はベンチに腰掛けてため息をついた。

「だめか……これで三度目だ……」

彼が何度もかけているのは、妹の沙耶のスマホだった。

「沙耶……」

仁はそう言ってうなだれた。最近、なんか冷たくなった。彼はここ一年における妹の変化に戸惑っていた。周りに相談してはみたものの、上司や同僚達は口を揃えてこう答えるばかりだった。

「それは反抗期。妹さんがしっかり成長してる証だよ」

どいつもこいつも他人事みたいに答えやがって。呑気なそれは、余計仁をイラつかせるだけだった。どうすれば彼女を自分とつなぎとめられるだろうか。彼は必死だった。


***


カタカタカタカタ……

暗い部屋に無機質なタイピングの音だけがこだましていた。

「……」

仁は毛布を被りながらノートパソコンを開いていた。白く発光するディスプレイには検索エンジンの結果画面が映し出されていた。適当にスクロールしていると、あるリンクが目に止まった。

「これは……」

彼はそっとそれをクリックした。


***


次の朝。沙耶を目覚めさせたのはスマホのアラームではなく、メッセンジャーアプリの通知音だった。

「何だ……? 」

彼女は目をこすりながらスマホを見た。通知を見ると、その送り主は恋人の了だった。

「了くん……? 」

沙耶は首を傾げながらそれを開いた。


(続く)


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