02−05 サイバー犯罪課


「ねえ……かっこよくない? 」

「うん……」

ここは警視庁の総合庁舎内にある食堂。その隅で警察官の制服を来た二人の女性がささやきあっていた。その視線の先には、妙に姿勢のよい白シャツ姿の男がいた。男は、ここの人気メニューであるレバニラ定食を優雅に食していた。

「やっぱりかっこいいよね……伊能刑事」

「食べる姿も絵になってる……素敵」

あまりに素敵すぎて、彼女達の目はハートになっていた。


***


伊能仁いのうひとしは、警視庁内の課の中の花形である捜査一課に勤める刑事である。次々と持ち込まれる事件をその怜悧な頭脳で次々と解決へと導き、捜査一課内の次世代を担うホープとして、上層部から期待されていた。常に背筋が伸びていて、キラキラしているオーラを放つ彼はいつもみんなのの憧れであった。

「伊能先輩……いつもかっこいいなぁ」

廊下を颯爽と歩く彼の姿に、大量の書類を抱えながら見とれている井深新いぶかあらたも、その一人だった。新は仁の一つ後輩で、警察学校時代から仁は彼の憧れの存在だった。だから、新は警察庁に入る時に憧れの君と同じ捜査一課を希望した。だが、願いも虚しく-というよりは、実際社会ではよくあることなのだが-彼が配属されたのは、まだできて5年くらいのサイバー犯罪課であった。なんで自分はここに来たんだろう。サイバー犯罪のサの字も知らぬ彼は日々そう自問自答していた。


***


荷物を持ったまま、ボーっとしていた新は、突然肩に衝撃が走るのを感じた。

「ふぇえっ!? 」

情けない声を上げながら振り向くと、彼の上司である北原徳香きたはらのりかが肩に手を乗せていた。その整った顔は微かに怒りに歪んでいる。

「き……北原さん」

薄茶色に染めた長めの髪を一つに纏めた黒スーツ姿の彼女は、低めでハスキーな声で彼にこう囁く。

「井深くん……貴様たるんどるぞ……さっさと仕事に戻ろうか……」

「はっ……はいいっ……! 」

ヤンキー並みにすごみのきいた声は、大の大人である新をおおいにビビらせた。彼は書類を抱え、一目散に走っていった。


***


新達サイバー犯罪課の持ち場は、庁舎の地下セクションの中にあった。科捜研や鑑識の部屋の前を通り過ぎ、さらに奥に行くと、<サイバー犯罪課>と書かれたマグネットが貼られたドアがある。それを開けると現れる巨大なコンピューターが鎮座し、それ以外にはシンプルなスチール製の机とパイプ椅子しかない空間がサイバー犯罪課のすべてだった。

「この殺風景な空間……もうちょっとどうにかならないものか………」

書類を机に置きながらそう言うと、どこから声が聞こえてきた。

「殺風景なんて……失礼にも程がありますわ……」


(続く)

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