02−03 恋人達の夜

夜。自分のアパートの自室で沙耶は恋人の武田了たけだりょうとスカイプをしていた。

「今日ね……高校の時の同級生の子と会ったんだ……」

「へえ……」

タブレット画面の向こうで、了は缶ビールをちびちびやりながらそう相槌を打った。

「彼氏できたって報告したら……おめでとうって言ってくれた……」

「そう……」

了はさも興味なさげな感じで言った。

「ちょっと……なんで機嫌悪そうなの……もしかして……嫉妬してる……?」

「ちょっ……そんなわけっ……」

「図星ね……」

顔を真っ赤にして慌てる了を見て、沙耶はくすくす笑った。それにつられて、了も笑う。

「バレちゃ仕方ないな……俺はさっきまでヒヤヒヤしてたんだよ……まさか件の同級生に君を取られちゃうじゃないかってね……」

それに対し、沙耶はこう言った。

「大丈夫よ……そんな関係じゃないから……」


***


沙耶と了が出会ったのは4月上旬、彼女が入学してすぐ行われたサークルの新歓コンパだった。同じ文学部の先輩後輩同士で、さらに好きな作家が同じ事から二人は意気投合した。友達から始まった二人の関係が晴れて恋人に昇格したのは、5月の初めだった。それ以来、二人はず休日は公園デート、夜にはこうしてスカイプと、程よい距離を保ちながらオーソドックスな<清いお付き合い>を続けていた。


***


「あっ、そうだ。沙耶、<ポムピー>って知ってる? 」

了がそう言いだしたのは、少したわいない会話をした後だった。

「ぽむぴー? 」

「今、友達の間で流行ってるんだ」

彼はスマホの画面をタブレットの画面越しに見せた。沙耶はそれをマジマジと見る。

「なにこれ……」

彼女の視線の先には、小さい画面の中を動き回る二頭身ぐらいのリスみたいな生き物がいた。

「これが……ポムピー? 」

「うん、そうだよ」

了はそう言って微笑んだ。


***


「デジタルペット? 」

ここは喫茶店ザイオンの地下にある<小寺サイバーセキュリティ研究所>。閉店後、剛の作業の手伝いをしていた悠真はディスプレイに向かって素っ頓狂な声を出した。

「そうなのです。今若い女性ー特に十代後半から二十代後半の女性ですねーに流行ってるらしいのですよ」

その中で鼻の穴を膨らませて話しているのは、ここのコンピューターの少女型のー正確にはHVIタイプのーOSであるハルだった。

「そんな情報、どこで仕入れてくるんだ? 」

書類の整理をしながら剛が言う。

「ブラウザで検索サーチしてたらたまたま見つけたのです」

「まったく……君の知的好奇心の強さには舌を巻くよ……」

不要な書類をゴミ箱に捨てながら悠真は、肩をすくめた。


(続く)

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