02−02 終わった恋(あるいは現在進行形の束縛)

時は去年の秋の初めまで遡る。

この時、沙耶が悠真への想いを自覚してしてから、早くも1年が経とうとしており、二人は高校3年になっていた。あの日からずっと、沙耶は学校の友人はおろか、家族にも彼が好きという事は話していなかった。

彼女は悩んでいた。いつ、どこで、どのようにして彼への想いを伝えればいいのかと。

「はあ……」

彼女が自室でため息をついていると、後ろからドアをノックする音が聞こえた。

「入るよ……」

そう言ってドアを開けて入ってきたのは、沙耶の兄である伊能仁いのうじんだった。彼は彼女の7つ年上で、小さい時から仲がよかった。

「お兄ちゃん……」

「何ため息ついてるんだい…お兄ちゃんに話してごらん……」

仁は沙耶を優しく抱きしめながらそう言った。

「……」

彼女は何も言えなかった。好きなお兄ちゃんに好きな人ができたって言ったら悲しむから。

「なんでもないよ……」

沙耶がにっこり笑ってそう言うと、仁はそれはよかったと言って彼女に口付けた。

「彼氏ができたと思ってヒヤヒヤしたよ……僕の沙耶なのに」

「っ……」

沙耶はゾッとした。そんな感情を抱いているくせに彼女は兄から離れられないでいた。


***

「……」

沙耶は、長い間胸に秘め続けた想いを彼に伝えようとしていた。その日はちょうど彼女にとって最後の体育祭の日だった。悠真は、沙耶の目の前で同じクラスの男子生徒と談笑していた。

「っ……」

彼女は彼の背中に向かって自分の想いを伝えようとしたが、一瞬兄の顔が浮かび途中であきらめてしまった。

「やっぱり……裏切れない……」

沙耶は自分の気持ちを封印する事にした。

「さよなら……小寺くん」

彼女はそう言って背を向けた。その日以来、ここで再会するまで、沙耶は悠真に話かけずに残りの日々を過ごした。


***


「小寺くん……」

河川敷に腰掛けながら、沙耶が言う。

「何……? 」

悠真がそう言うと、沙耶は一呼吸置いた後でこう言った。満面の笑顔で。

「大学で……彼氏……できたんだ…」

「へえ……おめでとう……」

「彼はあの時と同じ笑顔でそう言った。沙耶はその時初めて想いを封印したあの日の自分が救われたと感じた。


***


「おやっさん……戻ったよ……」

悠真がそう言ってザイオンに戻ると、この店の主人である小寺剛が何処からか届いたダンボールを開けていた。

「おっ、悠真……喜べ……いいモノが届いたぞ……」

剛がそう言って彼に見せてきったのは、灰色全身タイツのような服だった。

「何だこれ……」

「ジャックスーツってやつだ。こいつを着てダイヴすると、生身の動きがそのままサイバースペースの身体に反映されるんだ」

「ふーん……っていうか……いくらくらいしたの……? 」

悠真がそう言うと、剛は急に背筋を伸ばしてこう言った。

「さあて……コーヒーの時間にしようか……」

答えをはぐらかそうとしてるのだ。悠真はやれやれといった感じでため息をついた。

「はあ……」


(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます