01−07 研究所へようこそ
暗がりの中、階段をおりる金属質の足音だけが響いていた。
「この先に何があるんだろ……」
蘭がそう思った時、階段が途切れ、広い空間へ出た。
「おっ、待ってたぞ」
そこでは、壁にもたれかかった体勢で、マスターが三人を待っていた。
「小寺サイバーセキュリティ研究所へようこそ……では……そろそろあの子を呼びますか……」
彼はそう言って少し咳払いした後、大声でこう言った。
「ハル!! 」
すると、周りの照明が点き、正面のモニターが鈍く光った。
「……」
「え……」
不安になった蘭が隣で身構えている麻里にしがみついた時、それの中からこう甲高い声が聞こえてきた。
「はいはーい、お呼びなのですかー? 」
「⁉︎」
「は⁉︎ 」
二人が一斉にモニターを見ると、それの中でピンク色の長髪を大振りな髪飾りで二つに結わえた少女が、こちらのほうを向いて笑っていた。
「きゃあああっ⁉︎ 」
「何これぇ⁉︎ 」
「お嬢さん方が驚くのも無理もないな……なにせVHIなんて滅多に見れない代物だからな……」
驚く二人に、マスターはそう言ってため息をついた。
「VHI? 」
「ハル、お嬢さんたちにちょっと説明してくれ」
「了解なのです! 」
ハルと呼ばれた少女は、こう恭しく頭を下げた。
「はじめましてなのです!私はハルー正確にはHAL2600ーVHIタイプのOSなのです」
話を進める前に、VHIについて説明しておこう。
VHIーヴァーチャル・ヒューマノイド・インターフェースーは所謂OSやソフトウェアをサイバー空間上で擬人化したものである。VR技術の進歩とともに誕生した彼らは、サブカルチャー文化の中でおとぎ話のように語られてきたそれを本当にしたという斬新さがうけ、瞬く間に浸透していった。
「人格が与えられたOS……という事はAI? 」
「AIとはちょっとちがうのです。私たちはシステムやプログラムみたいなものなのです……私はただマスターから指令されている事をやっているだけ……つまりロボットのようなものなのです」
「ふーん」
「そうなのかあ……」
そう呟いたその時、蘭はある事に気付いた。
「ってあれ……?悠真さんは……? 」
「あいつなら奥で準備してる……おっ、そろそろ終わったようだな……」
マスターがそう言った後、奥の扉から悠真が現れた。
「……!」
蘭は一目見るなり拍子抜けした。なぜなら彼がパンツ以外は何も身につけていない状態だったからだ。
「ちょっ……なんでこの格好なの……」
麻里は顔を赤らめながらそう言った。口ではそういいながらも、二人の視線は彼の細くもがっちりとした肩や、やや厚めの胸板に注がれていた。
「まあ……理由はそのうちわかるよ」
そんな彼女たちを尻目に、悠真はそう言った。
(続く)
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