01−06 ピンチ!
悠真は、注文したものができるのを待ちながらこないだの事を思い出していた。
「あの子……顔を真っ赤にして逃げていったけど、まさかこんな所で会うなんてな……」
そう考えているうちに、紅茶とオレンジジュースができあがった。
***
「お待たせしました……紅茶とオレンジジュースです……」
そう言って注文の品を置くと、蘭がこう言った。
「あの……こないだはすみませんでした……」
それを見た悠真は、一度キョトンとした顔を見せた後、にっこり笑ってこう返した。
「いいんだよ……お互い怪我もなかったんだし……」
その笑顔を見て、蘭と麻里は図らずもキュンとときめいてしまった。
「……」
「……はあ」
***
「優しそうな人だったね……笑顔素敵だったし……」
「うん……」
悠真が去った後、蘭と麻里は顔を突き合わせてそう言いあった。
「ちょっとキュンってしちゃった……」
頬を赤らめたまま、蘭がそう言った時、制服のポケットに入っていた彼女のスマホが震えた。
「誰からだろ……」
蘭がそう言ってスマホの画面を点けて、何が来たのか確認した数秒後、その顔はみるみるうちに青ざめた。
「……」
彼女は人形のように凍りついていた。じっと画面を見つめるその目には明らかに怯えの色が浮かんでいた。
「どうしたの……? 」
麻里が聞いても蘭は唇をわなわなと震わせるだけだった。
「……」
その様子をカウンター側から悠真が見つめていた。
「何があったの……」
そう麻里が聞くと、蘭はスマホを床に落として頭を抱えた。
「どうしよう……」
「……」
どういう事とだと彼女が聞こうとした時、蘭のスマホを持った悠真が二人に向かって歩み寄ってきた。
「君……学校のデータベースにある個人情報を掲示板に晒されようとしてるな……ranちゃん」
「……⁉︎」
蘭は目を見開いてこう言った。
「なんで……私の芸名知ってるの……」
「声でなんとなくわかった」
「……」
「とにかく、困ってるんだろ……だから俺が力になってやるよ……」
「え……」
蘭がそう声を漏らした時、悠真の背後から声が聞こえた。
「悠真……俺たちの出番が来たようだな……」
声の主は、カウンターに立っていたこの店のマスターらしき中年男性だった。
「そうですね……おやっさん」
悠真はそう言ってニヤッとした。
「……」
「出番って……今から何をするの? 」
麻里がマスターにそう聞いた時、彼は待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑い、カウンターの奥にある扉の前に立ち、それの隣にある小さなスイッチを押した。すると、重たい音をあげて扉が開いた。
「まあ……今にわかるよ……」
マスターは、それだけ言って扉の向こうの暗がりへと消えた。
「さあ、俺たちも行こう……」
悠真は蘭たちに向かってそう言った。
「あの……本当に私の力になってくれるんですか……? 」
不安そうにそう言う彼女に、悠真はこう言った。
「心配しないで……絶対助けてあげるから……」
「……」
「……っ」
蘭と麻里は、扉へと向かう彼の背中を追った。
(続く)
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