01−04 追う者と追われる者、そして黒パーカーの男

「大丈夫……? 怪我してない……? 」

長身の青年は手に持った紙袋を地面に置き、腰を屈めた。

「だ……大丈夫です……お気遣いありがとうございます……」

蘭はお礼をいって立ち上がった。

「そうか……ならよかった……」

青年はそう言いながら笑顔で腰を上げた。それは彼女にとってどこか好ましいものだった。

「……」

ディレクターや家族以外の異性と、まともに話した事のない蘭は緊張と動揺のあまり、無言で立ち尽くしていた。

「どうしたの……」

彼女が我にかえったのは、青年がそう話しかけた時だった。

「なっ……なんでもないでしゅっ……」

蘭はそう言って向こうへ走り去っていった。青年は呆然とその背中を見つめていた。その後、首を少し傾げ、何処かへ去っていった。



***


二人が去った後、電柱の後ろから舌打ちの音が聞こえた。

「ちっ……ranぴょんにまた逃げられた……」

悔しそうにその言葉を漏らすのは黒ジャージにサングラスをかけたいかにも怪しい男だった。男はスマホの画面をつけた。その画面に写っていたのは<saezuritter>の画面だった。彼はranの公式アカウントにアクセスし、リプライ用のフォームを開いた。そこに表示されていたユーザー名には<チャック>と記されていた。そう、彼こそがranの公式アカウントに不気味なコメントを送っていた<チャック>その人である。チャックはこうリプライを送った。


___


@ran__002


今日も君に話しかけようとしたのに逃げられた……どうして逃げるの……?


___


「送信っ……と」

彼はそう言ってリプライを送ると、駅前に向かって歩だした。


***


夕方のネットカフェは学校帰りらしき学生たちでごった返していた。おもしろ動画で大爆笑する声。アイドルの動画を見てきゃあきゃあ騒ぐ声。

「うるせえ……」

チャックは、コーラをちびちびやりながらそう呻くように呟いた。店内の喧騒は彼をイラつかせた。チャックは蘭の動画を見ながら、こう呟いた。

「なんとかしてranぴょんの気を引きたいな……」

その瞬間、個室スペースの扉を何者かが叩く音がした。

「なんだ……」

彼がそう言って振り向いた瞬間、扉が開いた。

「何か困っているようだな……」

そう言って入ってきたのは、黒いパーカーを目深にかぶった男だった。

「だ……誰だ……」

そう言って身構えるチャックに、男はこう言った。

「大丈夫……俺はお前の味方だ……」

「ぼ……僕の味方……?」

「そう、味方だ……」

男はチャックの間近まで近づくと、こう言った。

「困っているんだろ……俺が力になるよ……」


(続く)



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