小さい巨人族


 のっぽのドワーフ族・チビの巨人族。ウソみたいな組み合わせのコンビだが、依頼達成率はぎるどの中でも一、二を争う。ドワーフはファーニル、サーベルを帯剣し、その容姿はエルフと言われても驚かない。赤黒い皮膚がドワーフであることを証明しているが。



 一方の、巨人族はガルド。武器は一切もたない。探索用にツルハシをリュックサックに下げるのみだ。銀髪に透き通るような肌をしていなければ、ドワーフと言われても驚かないだろう。ただ、その口は悪い。


「てめぇら、いい加減にしろよ」


 と探査隊に向けて、何度目かの愚痴をもらす。経緯はこうだ。貴重な古代鉱石採取の為、ギルド経由で探査体は冒険者を雇った。それがガルドとファーニルなワケだが、探索隊の準備不足で今は道に迷っているというわけだ。


 探索隊は探索隊で、役にも立たない口だけというイメージを先入観に、ガルドに愛想を尽かしていた。度重なって、衝突を繰り返して、今に至る。


「何もしない、お前に言われたくない! 私達の護衛は、ファーニルさんだけでたくさんだ。ガルド、お前はとっとと帰れ――」


 探査中にそんなことを言うのは契約違反だ。目を細めたのは、ファーニルで。


「失礼ですが、ガルドは強いですよ。私がサーベルを振るのは、ガルドに余計な労力をさかせない為。ガルドを解雇するのなら、パーティーである私も解雇することになりますが?」


 緊張感が走る。探査隊はから笑いでごまかし、舌打ちをする。

 と、その音に交じって足音が乾いた足音が響いた。

 からん、からんと。


「騒ぎすぎですね。墓守が私たちを嗅ぎつけたようです」

「そんな呑気に分析しないで、ファーニルさん、助けてください!」

「いえ、この状況を打破できるのは私ではありません。ガルド、お願いしますよ?」

「疲れたら、頼むぞ?」

「もちろんです」


 そう言いながらも、ファーニルも念の為サーベルを抜き放つ。


「ガルド、お前、そんなツルハシで何を――」

「これは探索用だ。戦闘じゃ使わねぇよ」

「こんな時に冗談言っている場合か!」


 もう眼前まで、骸骨達がカチャカチャ骨を鳴らしながら迫ってくる。


「いいから、俺に任せとけ」

「は?」


 言葉を失った。ガルドの右腕が、大きく膨れ上がる。膨張し、そうまるで巨人の右腕のように。


「墓守ごときが、巨人にかなうと思うなよ? 俺は強いぞ」


 不敵な笑みを浮かべ、ガルドはその手を振る。骨が砕け、洞窟内の石壁を抉る。轟音が鳴り響き、地響きにも似た不気味な音が鳴り響く。


「え?」


 狼狽した声と、ガルドの欠伸が重なっった。見れば、すでにその右腕はもとに戻っている。


「まぁ洞窟の中で巨人化したらそうなるよね」

「ファーニル。体は託した」

「ま、それが私の仕事ですからね」


 ファーニルはにっこり微笑んで、ガルドの体をお姫様抱っこする。


「……おまえ、その、抱き方やめろ……って」

「時々、思い出せてあげないと。ガルドは私のモノなんですから」

「うるせぇ……」


 声に力がまるでない。ガルドはもう一回欠伸して――眠ってしまった。探査隊の面々は唖然と、その様を見る。


「いったん避難が良いと思いますよ?」


 ファーニルはそう言い、すでに走り出す。


「え? おい?」

「洞窟内で巨人化しましたから。崩落の危険があります。ただ、どうやら新しい階層につながったようですけどね」


 それが本当なら、研究価値は増すが――。


「今は避難だ、総員、避難!」

 探索隊が全力で駆け出した刹那、背後で岩盤が落ちて、土煙と轟音を巻き上げた。


 


 


 


「また探索隊から依頼がきてるけど、ガルド、どうします? 指名依頼ですよ」



 とファーニルはガルドのカップに紅茶を注ぎながら言う。


「面倒くせぇなぁ」

「信頼はかちとったと思うけどね?」

「それこそ、うぜぇ話しだって」

「変わらないですね」

「あ?」

「ガルドはいつも言いますからね。『俺を信じろ』って」


 とファーニルはニッコリ微笑む。


「でも、私の時は『俺だけを信じろ』でしたね。迫害を受けたドワーフに、なんて物好きなって思いましたよ」

「また、その話かよ」

「えぇ。だって嬉しかったんですよ。私の夢だった巨人に剣を打つ。それが夢物語じゃなくて叶うかもしれない――そう思ったらね」

「それはお前の問題だろ、俺は知らねーよ」


 と言いながら、紅茶に口をつける。


「依頼は、受けとけ。面倒くせぇけど、やってやるよ」

「そうガルドなら言うと思って、もう受けてます。出発は明日、シルフの刻です」

「は?」

「少し早いですけど、私が起こしてあげますから、安心してくださいね」

「早いとか、そんなレベルじゃないだろ、ふざけ――」


 ファーニルとガルドの喧噪が続くのもいつものことで。

 神代の巨人として現世に目覚めた少年と、巨人に剣を打ちたいドワーフの旅は、まだまだ続く。


 



________________

診断メーカー「あなたが物語の主人公をつくったー」からお題拝借。


主人公紹介

尾岡レキ 高い戦闘力と共に好戦的な性格を持つトラブルメーカー。巨人族の末裔にあたるが小柄なのがコンプレックス

口癖は「俺だけを信じろ」

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