鞄の中の魔法


 魔術師の数は多いが、王家付はたった一人。完全な実力主義で今代は王子と同じ年の16歳。才能、そして自身の努力勝ち得た彼女に大衆は羨望の眼差しを向ける。

 そんな彼女が、絶えず離さない黒革の鞄があった。閣議でも、儀式の時も肌身離さない鞄に向け、噂がたちのぼる。曰く、禁書が納められている。曰く失われた黒魔術が封印されているとか、噂は膨れ上がっていくが、女は無言を貫くのみだった。


 


 自分の部屋だけで、鞄を開ける。

 王子からもらったメモ、王子からの手紙、王子直筆の勅命、王子の似顔絵――幼いあの日から記憶がある限りの全て。だって彼の傍にいたい一心で、宮廷魔術師の地位を得た。

 彼が私に魔法をかけたんだ――。




________________

第63回twitter300字SS参加作品。

テーマ「鞄」でした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る