そんな薬があれば


 シャープペンシルで文字を綴りながら、ひなたはチラッと爽を見やる。


「人見知りをしない薬があればいいのにね」


 そうひなたは言う。一部の人に対して素直になれるのに、それ以外では言葉にならない。その一方で、目の前の爽にならこうも素直になれる。

 と爽が笑っていた。


「え?」

「そんな薬があってもなくてもひなたは、ひなたじゃない?」

「え、でも、それじゃ――」

「それに、そんな薬があったら俺が困る」

「え?」

「周りがほっとかないじゃん。俺はひなたを独占したいのにね」




 ――爽、お前はもう少し人見知れ!

 一緒に勉強しながら涼太は聞こえない振りをする。そんな薬があれば、言葉を紡ぐことをきっと迷わないのに――。





________________


第50回Twitter300字SS参加作品。

テーマ「薬」でした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る