星を見る人たち.16

言葉を尽くしてやる他ないと思い、寧子は仕方なく口を開く。

「この景色は、すばるが寝ている間、眠ってる近くの人も見るようになるみたい。宿題とか予習復習を片づけたりしてから寝ると、まず間違いなく夢の中は星空の中ね」

すばるは他人の近くで寝ることをよしとしない。すばると同じ夢を見ることの驚きやストレスをよく知っているからだ。魔法の心得がない者があの星空を見ると、生気を吸い取られるのだとか。寧子にとってはいずれも関係ない話だし、数回見たらあの広大さにも慣れた。睡眠時間の方が大事だから、わざわざ毎日気を取られているわけにもいかない。その生活に慣れきっていたから、すばるも言い忘れていたのだろう。すばるの代わりに謝るが、あの景色はそこまで恐怖を抱くものだろうか?

そこまで言葉を選びながらミオに告げると、首を横に振りながらミオは言った。

「あの星の一つ一つは、生命一つ一つとリンクしているのよ。空気が完全に一緒だったから間違いない。あそこで生まれた星と一緒に誰かが生まれて、星の一つが消えていったときに、誰かが死ぬ。あそこはそういうものなの」

「そんなこと、聞いたことない」

それに、すばるの夢の中では星の一つの一生などせいぜい一時間程度だ。何年もかかるようなものではない。そこまで気が付いて、寧子は身震いした。ミオがなぜ悲鳴を上げて、ああも恐怖していたかが理解できたのだ。

「多分だけど、能力の対価と関係があると思うの。『なりたい自分になる』のが本当に目的なのだとしたら、自分のために多くのものを捨て去らなければならないはず。たとえば、遥か何万年も未来の最後とか。なかなか勇気が湧かなくて凝視できなかったけど、逆再生っぽく見えたから宇宙の最後から逆再生してるんだと思う」

あれだけ震えていながら寧子が気にも留めなかったことに気が付いたのか、とミオが感嘆の声をあげる。それを見て、ミオは苦笑した。

「そういうことをすると、あなたって人の記憶からいなくなっちゃうんじゃないの?」


「――そんなこと、言ってないはずよ?」

今度は、寧子が目を丸くする番だった。

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