スターゲイザー.13

ミオは、今どこかに向かって流されていた。流れに逆らうように体を動かしてみるが、思うように体は動かない。見渡す限りの星空はやる気を引き出してくれるし、周囲の膨大な魔力を少し吸い込むだけで普段の倍以上の力が湧いてくる。深呼吸して、全身全霊の力を込めるが、不思議と前に進めない。焦りや不安こそないものの、フラストレーションが溜まる。

「どこかに、向かわされている?」

試しに思ったことを口に出してみた。誰かに強制されて、ミオは今ここを流されている。最初は思うように天球儀を破壊できなかったためにここにいるのだと思っていたが、そうではないとしたら。

「そりゃあ当然」

当然、その誰かを見つけ出して、ぶん殴る。ミオの遠いご先祖様の有り難い言葉だ。邪魔な物は、殴って壊せ。何でも壊すパンチ糸術の開発者はやはり血の気が多いと思うが、今はその高血圧が一番頼りになる。インターバルも挟んだ。魔力は回復して、溢れるほどだ。概念も次元も破壊する便利な道具最強パンチの力を、思い知るが良い。

「糸術、展開」

誰かの魂に悪影響があったら困るので、ミオの全身を覆うだけにして、糸術を展開する。何もかもを遮断するので、数秒間だけ。

「……なるほど」

全身に防壁を張ってようやく気がついたが、誰かにずっと引っ張られていたようだ。糸術で切断したその繋がりを手で掴んで、ミオは力を抜く。これで放っておいても誰かの元に辿り着けるだろう。これで後は、全力でパンチをお見舞いしてやればいい。


星々の海を引っ張られること数十分。景色は変わらず、眩い星々。銀河でも見えるかと思ったが、特にそんなことはなく、怒りが消え失せて来た頃になってようやく、終わりが見えてきた。

「誰か、いる」

座り込んで、泣いているらしい少女だ。羽と耳は見えず、尻尾の位置はミオの死角になっている。こんな場所に迷い込むような能力を持った人間など、そうそういない。

引っ張られたそのゴールで待ち受けていたのは、やはり予想通りの人物だった。

「おかえり、ミオ。おつかれさま」

泣きはらした顔で、マヒルが出迎えた。

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