第90話 和馬サイド④《激闘を終えて》
見事敵将パズズを倒した和馬達は、ブリーズ城で幽閉されていた妖精達を救出する。
自分達の大将が殺られたと分かった鳥獣達は、一部は
「なんなのー、うちらだけどうして縛られてる訳ー?」
「ハーピーちゃんは悪くないのです」
「死ンデ……」
そう、ウインディアナ村の手前上空で、ぴゅあちゃんの
「貴女達には聞きたい事があったので、縛らせていただきました」
「ウインディアナ村殺ったのもあんた達?」
掌に風を球のように創り出し、ウインクがハーピー三姉妹へ迫る。
「あの村やったのはパズズよ。だいたいうちらはパズズに協力してやってただけよ?」
「ハーピーちゃんは悪くないのです」
「エンザイ……」
「でもあの時、俺と弥生さんを襲ったよな?」
和馬がハーピー三姉妹の長女ランへブライトブレイドを突きつける。
「だから! 仕方なく協力していたんだって。うちらの住んでいる谷は
「ハーピーちゃんは仕方がなかったのですー」
「アディオス……」
――魔獣女王? むしろパズズに従っていた訳ではないのか? とんでもない名前が出て来たけど、本当なのか?
和馬が考えあぐねていると……。
「どうやら、そいつらの話はほんまらしいで!」
地下牢に幽閉されていたブリーズ城の王と王妃、お姫様を助け出した雷光の妖撃団団長、ビビが王の間へと入って来た。王、王妃、お姫様も一緒だ。すると、お姫様が白いレースの入った淡いグリーンのドレスを着たまま和馬へ近づき、和馬の顎をくいっとあげて顔を近づける。
「え? お姫様!?」
「なっ!?」
驚いたのはウインクと和馬だ。
「へぇー、顔立ちはやはりそっくりね。
和馬の顎から手を離すと、お姫様はハンカチで丁寧に手を拭き始める。
「え? あの……どういう?」
和馬が訳もわからず困惑している。
「あ、和馬はん。うちとそこのお姫様、シルビア・ウインディは和馬はんの父親、シュウジと契約し、魔王と戦った妖精なんよ。シルビアはシュウジに
「ビビ、あんた、余計な事を……」
妖精界で親父の名を聞く事で、勇者としての存在がいかに大きいかを改めて知る。それにしても親父に告白したって……どういう状況だよ、そう思う和馬。
「貴方が和馬さんですね。ビビさんから話は聞きました。親子で二度も我々の国を救っていただいてありがとうございました」
「貴殿は
王と王妃からお礼を言われる。そして、王から和馬の手に翠色に輝く宝石が渡された。
「これは?」
「それはな、グリーンエメラルドと言って、
「え? こんな大切な物をなぜ俺に?」
「ですが、和馬さん。他の宝石も既に貰っているのではありませんか?」
「あ……」
各国を救った時、戦闘を終え、子供を救った際に手に入った宝石を和馬は思い出す。今宝石はエレナ王妃に預けていた。
「弥生さんもお久しぶりですね、
「え? エイトさん!?」
王妃の発言に思わず弥生を見る和馬。
「エイト様とは残念ながら、
弥生が王妃へそう告げる。
「あ、あの? 弥生さんも、もしかして……」
「なんや、弥生、言うてなかったん? 弥生は
――な、なんだって!?
ビビが横から補足してくれた。如月エイトの妖精が弥生だったとは和馬にとっても驚きの事実であった。
「ビビさんと弥生さんが昔の友達って、そういう事だったんですか!?」
「ええ、すいません。言うタイミングを逃しておりました」
弥生が和馬へ頭を下げるものだから……。
「いやいや、いいんです。むしろ十六夜さんのお付をずっとされていたものかと思ってましたので……」
謝らなくていいですと慌ててフォローする和馬。弥生にビビ、シルビア姫。ここにはかつてシュウジと冒険した妖精が三名も揃っているのだ。
「あのー、王様、私! 私も活躍したわよ」
そんな中、ウインクが王様へ手をあげてアピールしている。
「ウインディアナ村のウインクさんですね。話は聞いています。ありがとうございます」
王妃から代わりにお礼を言われ、満更でもなさそうな表情をするウインク。彼女は褒められて伸びるタイプらしい。
「ちょっとぉーーうちら忘れられているんですけどぉー」
「ハーピーちゃんの存在も思い出して欲しいのです!」
「リメンバー……」
「堪忍な、そんなに殺して欲しかったんか?」
ビビがハーピー三姉妹を見てニヤリと笑う。
「ちょ、そんな事言ってないでしょ? わかったわよ、うちらが知ってる事話すから助けなさいよ!」
「ハーピーちゃんは悪いやつじゃないのです」
「サレンダー……」
この三姉妹、本当に観念したらしい。東の大陸にある
ハーピーが住む丘はちょうど魔獣牙城の東に位置し、パズズが住む鳥獣の谷と隣り合わせなんだそう。制空権にこだわりを持つパズズ、風が大好きなハーピーの意向を知ってか、風の都が欲しいからと、
「じゃあ、今回の黒幕は、パズズじゃなくて、その魔獣女王な訳か」
「魔獣女王は元々面倒臭がり屋で、興味のあるものにしか手を出さない性分やさかい、うちらも魔王と戦った時は相対してへんねん。まぁ、女王言うくらいやから少しは出来る相手なんやろうな」
「少しも何も、うちらは手も足も出ないわよ!」
「ちなみにハーピーちゃん翼があるので手は出ないのです」
「ハーピージョーク……」
さっきからハーピー三女の言葉が華麗にスルーされているのが可哀想に思えて来た和馬だが、話が逸れるので話題には出さなかった。
「では、風の都を襲った黒幕が魔獣女王であったと、十六夜様に報告しましょう。和馬様、ウインク様も、付いてきていただけますか?」
「弥生さん、聞かれなくてもそのつもりだぜ!」
「私は和馬にどこまでも付いていくわよ!」
話はまとまったようだ。
「じゃあうちとはここでお別れやな。風の都の一件が落ち着いたら、
「和馬と言いましたね。シュウジの息子なら、あなたも私の下僕にしてあげてもいいですわよ? 戦いが落ち着いたら風の都を訪れなさい」
えらくビビとこのシルビアというお姫様に気に入られたような気もするが……と返答に困っていると……。
「ちょっと、和馬は私だけのものなのー! 横取りしないでくれるー?」
「ちょ、やめ、ウインクさん」
ウインクが和馬を取られまいとすかさず和馬に腕を絡め、ひっつこうとする。
「ふふふ。あんたらのコンビネーションはしっかり見させてもらったさかい、横から入る気は全くあらへんでー。いつまでも仲良くなー」
「仲が良い事はいい事ですよ、ねぇ貴方」
「そうだな、王妃よ」
王と王妃がその様子を微笑ましく眺めるのである。
「ちょっとぉーーまたうちら忘れられているんですけどぉー」
「ハーピーちゃんここに居るのです!」
「リマインド……」
こうして、無事に風の都を救った和馬達は、風の都から東に位置する
「なぁ、弥生さん」
「はい、なんでしょう?」
「どうして、彼女達はついて来ているのでしょうか?」
「殺気は感じられないので問題はないでしょう」
和馬と弥生の会話に出て来た彼女達とはもちろん……。
「ちょっと、戦いで傷ついた後なんだからもっとゆっくり飛びなさいよー」
「ハーピーちゃんをいたわるのです!」
「モアースローリー……」
そう、ハーピー三姉妹、ラン、リン、ルンだ。
「まぁ、いいんじゃないの? 危害加えるつもりないみたいだし、敵の情報教えてくれる代わりにかくまってくれって交換条件付な訳だし」
ウインクがそんな和馬と弥生の様子を見て話しかける。
「ちょっとー聞いてますー?」
「ハーピーちゃん無視しないで欲しいのです」
「ルックルック……」
「――
「――
後方があまりに五月蠅いため、和馬とウインクが魔法を放つ。
「な!?」
「危ないのです」
「デンジャー……」
慌てて回避するハーピー三姉妹。
「ハーピーさん、静かについて来てもらえますか? ハーピーの丘に帰ってもらってもいいんですよ? まぁ、今帰っても、魔獣女王に殺されるでしょうけどね」
「……わかったわよ、静かにするわよ」
「ハーピーちゃん、こいつら怖いのです」
「クワイエット……」
以降、黙ってついて来るハーピー三姉妹。一行は風に乗り、いざ夢の都へと向かうのであった ――――
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