第60話 混沌世界《カオスワールド》激闘
炎を纏った剣で目の前に居る対象を斬り捨てようと猛烈な勢いで斬り払うファイリー。リンクは舞いを舞う可憐な動きで剣先をかわすが、ファイリーも洗練された動きでそれに続く。ファイリーの剣先がリンクの頬をかすめ、リンクの頬に赤い刀傷が出来る。
「おいおい、戦わない気か?
ファイリーの勢いに圧され、少しずつ後退するリンク。自身の胸元に来た刀身を
「残念だよ、
「――
ファイリー渾身の燃え盛る刃による一撃がリンクに届く直前、ファイリーの足下から強力な水柱が巻き起こり、ファイリーの身体ごと上空へと吹き飛ばす! ファイリーは水柱の衝撃を両手で身体を覆うようにして受け、空中で回転しながら着地する。
「へぇー、やっとやる気にな……」
「――
ファイリーが着地すると同時にリンクの
「ちっ!?」
ファイリーは舌打ちをしつつ、リンクの居た場所へ走るが、そこには既にリンクの姿はなく……。
「――水の戯れ<
ファイリーの右側へと移動していたリンクが素早く舞いを舞い踊り、ファイリーを強力な水流が襲った!
「甘いぜ!
刹那、強力な水流と炎が合わさり、相反する力が混ざり合う事で巨大な渦となる。やがて、大量の水が気化する事で強力な爆発が起き、両者爆発の反動で吹き飛んでしまった。土煙があがる中、リンクとファイリーは互いに傷ついた状態のまま、ゆっくり立ち上がる。
「そう簡単には行かないと……思ってたぜ。
「ファイリーさん……見損ないました! あんな悪魔の術に簡単にかかってしまう程、ファイリーさんは弱くないハズです!」
「突然何を言い出すんだ、
両手を広げ、自分は正気だとアピールするファイリー。
「正気なら……貴女が正気なら、和馬さんや仲間に手をかけるなんて事はしないハズです!」
強い口調で言い放つリンク。
「それは……リリス様に楯突くから……」
「リリスは貴方の何ですか? リリスの洗脳よりも、もっと熱い絆と友情を貴方は持っているハズですよ?」
―― あたいとリンクは、これから良いライバルであり、大切な仲間だ! これからよろしくな、お姫様!
―― うん、よろしくね、ファイリー! シャキーンです!
この時ファイリーの脳裏に、子供姿の自身と水色の衣を着た女妖精の姿が浮かんだ。
「……うぅ……あたいは……」
突如頭を抱えて踞るファイリー。
「ファイリーさん! 目を覚まして!」
その様子に気づいて傷ついた身体のまま近づくリンク。
「……リンク……逃げろ……」
一瞬ファイリーの瞳に正気が灯った。
「ファイリーさん!」
ファイリーの様子が一瞬戻ったのを見てリンクが声をかける。
―― ファイリー、愛しのファイリー、どうしたの? 私を護ッテクレルンデショウ?
しかし、ファイリーの脳裏に再びリリスの姿が現れ、ファイリーの頬に両手を滑らせ、身体を密着させたまま、ゆっくりと首筋にキスをした。『カジノ&バープレミアム』でリリスとぶつかった際、いつの間にか首筋につけられていたキスマークが妖しく光る。
「だめだ……リンク……逃げろ……うぁああああああ」
「ファ、ファイリ……」
そのままファイリーの姿が炎の渦に包まれ、リンクが膝をついたまま巻き起こった風圧により後退する。やがて、炎の渦がなくなった先に、燃えるような赤い髪をなびかせ、身体のラインが強調された橙と紅色の戦衣を纏った、赤いオーラを放つ
「そ……そんな……」
「
赤い瞳の色を失い、強制的に力を解放させられたファイリーがそこに居た。
★★★
「愛の一閃!
対象の精神へ直接ダメージを与える鞭撃を乱れるように連続で放つルナティ。一方本性を現したリリスは、先ほどのファイリーとの戦闘でコーティングが剥がれかけていたアンブレラは捨てたまま、自身の蛇のような細くて長い尻尾でルナティによる鞭撃を捌いていた。そして、返しに鋭い刃のように尖った尻尾の先をルナティに向け突き出す。やがて、双方お互いの攻撃を避けながら魔法の詠唱を始める。
「「
そう、
「あら? いつの間に童夢音波を使えるようになったのかしら?」
リリスが感心するかのようにルナティへと言葉を投げかける。
「私も何も対策しないで戦う程馬鹿じゃないわよ?」
「あら、そう。じゃあ次行くわよ!」
そう告げるとリリスは、蝙蝠のような翼を羽ばたかせ、空中へと浮かんだ。
「闇へと堕ちよ!
上空で創り出した
「ルナティ! 危ない!」
その様子を見ていたのは優斗だ。ルナティに駆け寄ろうとするが……。
「お前は自分の心配をしろよ!」
「うぐっ!?」
仮面の男が放った膝蹴りが優斗の腹に入る。優斗はリリスの
三体同時に相手をするのはさすがに分が悪い。特に相手が武器を持っている様子はなかったため、鞭を振るい、距離を保ちながら足の速さでうまく敵の攻撃を回避していたが、ルナティの様子に気を取られた瞬間、一体の
そのままリンチを受けるかのように蹴りを入れられ地面で這いつくばる優斗。身体はホーリーベストを身につけていたため多少ダメージを軽減出来るが、頭を踏みつけられ、顔を蹴られた事で血が飛び散る。
「お前みたいなただの人間の餓鬼がここに居る事が場違いなんだよ!」
「くそ! 嘗めた目つきしやがって!」
そのまま右拳で優斗を殴る下僕。
「お前みたいなやつ、リリス様の下僕になる資格もないぜ」
「そんなの……こっちから願い下げだ!
次の瞬間、優斗の胸ぐらを掴んでいた下僕の身体に、優斗の掌から放たれた
「リ、リーダー!」
「そっちこそ、思春期の高校生嘗めんなよー!」
そのまま
「ルナティ!」
優斗はそのままルナティの方へ視線を送る。が、予想だにしていない光景が目の前に起きていた。
「愛の一閃!
ルナティの鞭撃が地に足を着けたリリスへ向け放たれる!
「ルナティ! どうなってるの? さっきの
ルナティの傍に駆け寄る優斗。
「え、優斗!? 大変!? 貴方こそ顔から血が出てるじゃない!?」
「俺は大丈夫だよ、それより……」
目の前に居る相手を見据える優斗。
「そこのルナティはね、隠し持っていた
優斗の質問にリリスが代わりに答えた。パチパチパチと手を叩くリリス。
「お、おい餓鬼! お前の相手は俺だ。リリス様に近づくんじゃない!」
そこに、
「近づいたらいけないのは貴方よ!
リリスの掌から漆黒の槍が投げつけられ、最後に残った
「リ、リス……さ……ま」
そのまま赤い鮮血の海に沈む下僕。
「役立たずには消えてもらったわ……それより眼鏡君、下僕の首を綺麗に刎ねて倒すなんて素敵よ? ますます気にいったわ」
「こっちはこんなの二度とごめんだよ」
「貴方……本当仲間をなんとも思ってないのね……」
リリスを冷たく見つめる優斗とルナティ。
「仲間? 仲間って何? 貴方達の価値観を押しつけないでくれる? 私はその物に利用する価値があれば利用するだけよ。後は気にいった物をコレクションするの。誰でも好きな物に囲まれて生きていきたいでしょ?」
「で、そのお気に入りも捨てていくのね……」
「え? 何が可笑しいの? 私が本当だとなーんの役にも立たなかった
「貴方に何を言っても無駄みたいね。このままみんなのために死んでちょうだい」
ルナティが止めを刺そうと鞭を構える。
「それは困るわねー。残念だわ……眼鏡君をお気に入りにしたかったけど……そうもいかないようね……」
その瞬間、リリスの唇が高速で動いたような気がしたのを優斗もルナティも見逃さなかった。
―― 地獄からの
気づいた時には優斗の首もとに紫色の鎌が向けられていた ――――
★★★
――どうしてこんな事になったんだろう……。
優斗は目の前で起こっている出来事を整理出来ずに座りこんでしまっていた。
「ルナティ! ルナティ! どうして!」
「今のは……危なかったわ……ね、優斗……よかっ……た、無事で……」
優斗の首元へ紫色の鎌が向けられた瞬間、ルナティは優斗を押し出し自ら身
を呈して優斗を守ったのである。
「あーあ、せっかく首から上が綺麗に舞う美しい光景を見たかったのに、残念ねー」
優斗の耳には、リリスの言葉は最早届いていなかった。優斗はルナティの身体を見つめ、今起きている出来事を受け止める事が出来ないで居た。
「ルナティ……ルナティ……」
「私のために……哀しんでくれるのね……ありがとう優斗……」
優斗の瞳から止めどなく雫が溢れ出ていた。
「そんなの……当たり前じゃないか!?」
「嬉しいわ……優斗……最後にお願いがあるの……」
ルナティは優しい口調で優斗に話していた。
「最後って何だよ! なんでも聞くよ……」
「
いつもの冗談でルナティが優斗を励まそうとしているのだろうか? 優斗が泣きながら首を振って答える。
「今……そんな冗談を言ってる場合じゃないだろ!」
「冗談じゃないわよ……あの時の事を思い出して……」
「あのー、そろそろ終わらせてもいいですかー? こっちは退屈なんですけど?」
優斗とルナティの様子を見ていたリリスが痺れを切らしたのか話しかける。
「――
リリスへ向けて水鉄砲を放ったのは雄也だ。リリスは自身の尻尾で受け止める。が、浄化の力を携えた水弾に、少なからず尻尾の傷から緑色の血が飛び散った。
「ちょっと、外野は黙っててくれるかしら ―― 地獄からの
先ほど優斗へ放ったものと同じ、紫色の鎌が今度は雄也の首元へと襲う! ……かに見えたのだが!
―― キーン!
刃と刃が激しくぶつかり合う、思わず耳を塞ぎたくなるような金属音が響き、紫色の鎌が弾かれた! さすがに予想をしていなかったのか、リリスが顔を
「何なの? ……初めてよ……
「――雄也様……間に合ってよかったです……あの技は
「レ、レイア!」
リリスをキっと睨みつけ、雄也へ笑顔を見せる。銀髪を靡かせ紫色の鎌を弾いた短剣は握りしめたまま、怒りの感情を露わにしたレイアの姿がそこにあった ――――
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