第47-1話 夢見の巫女 十六夜(前編)

 夢の都ドリームタウン大通りから少し外れにある夢見御殿ゆめみごてん。御殿の周囲はお堀で囲まれ、朱い手摺が特徴の橋梁がかかっている。橋の上を歩いていくと、清新な空気に包まれたような、まるで神聖な場所へ入るかのような気持ちになった。


 朱色の柱が特徴である夢見御殿ゆめみごてんは、お伽噺に出て来る竜宮城のような立派な建物で、入口には神社の鳥居があった。夢見ゆめみ巫女みこは神様のような存在なのであろうか。鳥居の前でなんとなくお辞儀をして中に入る雄也。庭の池には金色の鯉まで泳いでいた。ブリンクが魚にゃーと、ぱあーっと目を輝かせていたが、優斗が食べちゃいけないよとたしなめていた。


「雄也様ご一行様ですね。お待ちしておりました。案内役を任されました、夢妖精ドリームフェアリー弥生やよいと申します。十六夜いざよい様の部屋までご案内します」


 リンクよりも背の低い浴衣のような衣装を着た女の子が目の前に現れ、ぺこりと頭を下げる。


「初めまして、三井雄也みついゆうやと言います。お招きありがとうございます」


 代表して雄也が挨拶をした。


「なんか、小さなレイアみたいだね」


 リンクが小声でレイアに囁く。


「お嬢様、それはどういう意味ですか?」

「しっかりしてるって意味だよ」


「皆様こちらです! 中は広いので、付いて来ていただかないと迷います故、気をつけて下さい」


 長い長い回廊を抜け、ようやく奥の巫女が居るという部屋へ辿り着く。本当に広いお屋敷だった。途中食事をするであろう広い部屋や、狐の顔をした女性が踊っている部屋もあった。あ、それから、謎の白い蛇が空中をゆっくり舞っている部屋もあったのだが、そこは見て見ぬフリをした。


十六夜いざよい様、雄也様御一行連れて参りました」


『ありがとう、入って下さい』


 部屋の奥から声がして、中に入る一行。部屋の奥に薄い布で覆われた空間があり、巫女らしき者が座っていた。弥生やよいは部屋の入口で見張りをしているようだ。


「あなたが、夢見ゆめみ巫女みこさんですか?」


 リンクが尋ねる。


「ええ、そうです。皆様には隠す必要もありませんね。私が此処、夢の国ドリームプレミアを治める存在にして、夢見の巫女みこ十六夜いざよい』です。それからリンクさん、エレナ王妃とはよくお茶会をしているのですよ?」

「え? そうなんですか? お母様も貴女の事は知っているようでしたが驚きです」


 ――ええ? お茶会? 巫女同士のお茶会ってどんなものなんだ? 

 と思わず突っ込みを入れたくなる雄也。リンクも驚いている様子だ。

 そして、十六夜いざよいはゆっくりと手をあげる。十六夜が座っている場所を覆っていた薄く白い布が開き、十六夜の姿が見えるようになった。


「え? ど、どういう事ですか?」

「夢見の巫女みこさん、若すぎやん!?」

「本当に巫女みこなのか?」


 人間三人が同時に驚く。そこに座っていたのは、長い黒髪で着物姿の女性……いや、女の子であった。





★★★


 長い黒髪の頭には金色に輝く髪飾り、どうなっているのか髪の後ろが八の字結びになっている。大きな黒色の瞳。淡紫色の着物は白い衿と金色の帯、格好は巫女である事を彷彿とさせる。声もしっかりとした口調で大人びた優しい印象の声だった……のだが、そこに佇む顔は、リンクやパンジーよりも若いのではないかと思わせる、童顔の顔であった。


「そ、そんな……夢見の巫女がこんなに若かっただなんて……なんかショックだわ」


 ウインクが代表して感想を述べてくれた。


「あら、私は此処に居る誰よりも歳上ですよ?」


 ウインクの発言に、笑顔で返す十六夜。


「え? マジですか?」


 思わず荒い口調になってしまった雄也。あ、と思った時には遅い。


「はい、マジです」


 優しくそのままの言葉で返してくれた夢見の巫女みこ


「こちらの十六夜いざよい様は、確か千年は生きていると言われ、夢を渡り歩くその膨大な力により歳を取らないと以前エレナ王妃に聞いた事があります。それと同時に、この妖精界フェアリーアースで起きる事象を監視し、正しく導く存在であると」


 レイアが補足してくれた。と、という事はだよ。此処におわす方は妖精界フェアリーアースでは誰よりも歳を取っていて、尚且つ膨大な力を持っている、つまり最強な方という事になる。


――そして、幼女……いやいやいや、千歳の幼女ってなんだよ。あれだね、妖精界フェアリーアースにもし、インターネットとSNSなるものがあったら、ハッシュタグ『千歳の幼女』でトレンドになるやつだよ。


「うーん、ロリだけどロリではない……奥が深いですなぁ……」


 優斗が感心して頷く。まだまだ妖精界フェアリーアースというものは奥が深いですねぇーという顔をしている。千歳のロリ……うん、これ以上はやめておこう。


十六夜いざよいさんだっけ? それだけの力を持っているなら、敵さんを貴女の力では倒せなかったのか?」


 和馬が疑問に思ったようだ。


「私は自ら滅多に戦う事はありません。私は万物を正しき方向に導く役を担っている。ただし、私の力は『視る』事に特化しています。ですから、監視となるのです。実際に動いているのは私の下に仕えている夢妖精ドリームフェアリー達になります。人間界の事もずっと視て来ました。文化の発展も、戦いの歴史も。夢の都ドリームタウンが人間界の文化を取り入れているのはそのためですね」


 様々な文化が入り混じった街と感じたのはそのためだろう。食べ物も人間界のそれとほぼ変わらなかったし。雄也がそう思っていると……。


「食べ物は同じ材料がない場合もあるので、再現するのが大変なんですよ? あ、雄也さん、リュックの中にあるケーキを一つ、私にいただけますか?」


――待って! 待って! 今俺何も言ってないよ? エレナ王妃と同じ現象だね。心読んでます? 十六夜さん……。


 十六夜を見ると、ニコっと笑っている。これはあれだ。エレナ王妃と同じ、心読力マインドリーダーという能力アビリティだ。しかも行動まで視る事が出来るとなるとこの方はとんでもない強さという事になる。


「ケーキですね、ちょっと待って下さい」


 色々ありすぎて忘れていたが、ケーキあったんだったね。優斗の友人である、星菜美優ほしなみゆが手伝っている『アンジェリーナ オリオン』のケーキだ。箱を開くと甘い甘い宝石箱が姿を現した。


「雄也さーーん! ケケケケケーキあるんですかーー! キラキラシャキーンですよー!」


 リンクがシャキーンの上級版、キラキラシャキーンを発動していた。シャキーンもレベルアップするんだね。十六夜いざよいも笑顔でその様子を見ている。


「そうそう、すっかり忘れていたけど、リンクが前食べたい言ってたからさ、今回買って来てたんだよ。皆でわけよう」


「深刻な話ばかりすると暗くなりますから、ケーキを食べながら話しましょうか?」


 十六夜いざよいがパチンと指を鳴らすと、何もなかった場所に白いテーブルクロスがかかったテーブルと椅子。お皿にフォーク、紅茶まで出て来た。どういう仕組みなんだろう。夢妖精ドリームフェアリーは何でもありだ。


 こうして、夢見の巫女みこと雄也達との、第一回夢見御殿ゆめみごてん臨時お茶会が開催された。

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