第32話 パンジーの才能と双子妖精の聖撃

 誰もが知っている通り、人間界には色んな『音ゲー』というジャンルのゲームがある。


 画面上に上から流れて来るバーに合わせて五つのボタンを押して、DJのように演奏するゲーム、足でボタンを踏んで、ダンスをしているように矢印に合わせてステップを踏むゲーム。アイドルが歌う曲に合わせて画面をタッチするリズムゲー。掌より少し大きい半球状のボタンを押して、音を奏でるゲーム……数えるとキリがない。


 さて、今ここに居る羽根妖精は、決してゲームをしている訳ではない。羽根妖精の頭には、ヘルメットのようなものが装着されている。そこから何本か管がついており、巨大なカプセル状の装置へと繋がっている。


 目の前には手前にAからGまで書いているボタン、そして、その奥に半球状の様々な色のボタンが数十個。ゲームにしては余りに多すぎる。これがもしゲームなら、何通りか分からないパターン構成によって、まず高得点は難しいだろう。


「パンジーさん、BEの6番だ」背が小さいコボルト姿の男が指示を出す。


「えっと、これとこれ、とこれだ!」ポチ、ポチ、ポンとボタンを押す。


 すると、部屋の前方正面にあるモニターのうち、一つから爆発音が聞こえる。その瞬間、部屋にいたエルフの隊員達から『おぉーー』と歓声があがる。


「はい。次、BEの8!」

「えい、えい、えいっと」

「次は、BFの11!」

「ほい、ほい、ほいってね」


「BEの8!」「はい、はい、はいっと」「BFの9!」「はい、はい、のはい!」


 ボタンを押す度にモニターのどこかしらか聞こえる爆発音。


 そう、ボタンを押しているのはパンジー、そして、指示を出しているのは魔導連結部アークリンクユニットの副隊長である、コボルトのヨロズであった。


 …………


 ……


「ちょっと、まほろばさーーん、これいつまで続くのー?」


 ボタンを押しながら、声をあげるパンジー。


「文句言わないでー。 あなたの妖気力フェアリーエナジーとブライティエルフの地下に張り巡らせた魔妖鋼脈エナジーラインとを接続リンクさせて、予め設置している種子爆弾を爆発させているの。 これは魔妖鋼脈エナジーラインの位置を完全に・・・把握しているヨロズと、植物の力を自在に操るパンジー、貴方達にしか出来ない仕事なのよ?」

「あ、あれは! パンジーFコードでCEの8お願い!」


「Fコード? ああ、てかあのおっさん何で外に居るんだよ! えいえい、えい」

 驚きをあげながらボタンを押すパンジー。


 一つのモニターに映っていた髭面のおっさん・・・・の前に植物の蔓が柵のように現れ、マージインプからの水爆砲アクアを受け止めていた。


「はい、そのままCEの9!」

「おっ、さん、邪魔、です、よっ、と!」ボタンを押しながらパンジーが叫ぶ!


 雄也や優斗がここに居たのなら、パンジーって凄く音ゲーの才能あるんじゃない? と思ったかもしれない。



「す、すごーーい、あの植物の柵に爆弾! それにマージインプの足下を完璧に狙って攻撃するなんて! たいちょーーさすがですねーー」


 そう言ったのはまほろばお付のメイド、メイアだ。


「あ、そっか。メイアはヨロズの仕事普段見てないから知らないわよね。ヨロズは普段、オドオドしているようなコボルトだけどね、魔導結界対策室アークフィールドオペレーションルーム=通称AFOの室長として、ブライティエルフ地下の魔妖鋼脈エナジーラインを日々メンテナンスし、場所を全て記憶しているのよ。ああ見えて、一度見た場所や地点を忘れない、地点記憶ロケーションメモリーという能力アビリティまで持っているのよ?」

「す、すごいですね、その能力アビリティ!」


 まほろばの解説に、うんうんと頷くメイア。


「さらにはそこにある装置を使い、集めた妖精の妖気力フェアリーエナジーを自在に使って、今回のような巨大な結界を張ったり、特定の妖精と接続リンクさせて、その妖精の能力を魔妖鋼脈エナジーラインごしに、遠隔操作で街に反映させたり出来るの。だからこそ彼をAFO室長にしたのよ」


――パンジー、聞こえる? こいつは私がやっとくから、貴女は周りのマージインプ達を片づけて!


「了解!」


 意思伝達により聞こえた声に対し、返事をするパンジー。


「あ、メイアさん、そろそろパンジーさんの妖気力フェアリーエナジーの補充をお願いします!」


 ヨロズがメイアに声をかけた。


「はいはーーい、了解ーーー。光の加護の下に、彼の者へ再び光の英気を! 妖気共有エナジーシェア!」


 メイアの掌から淡い光がほわーんと飛び出し、光の粒子がやがてパンジーを包み込んだ。


「おーー、なんか元気が湧いて来るね! ありがとうメイアさん! よーし、でかい化け猫はライティさんに任せて、僕はマージインプを片づけちゃうよ!」

「よろしくお願いします! パンジーさん。じゃあ次行きますよ、DAの2!」

「ほい、ほいのほい!」


 こうして、音ゲー作業……ではなく、パンジーとヨロズの遠隔種子爆弾・・・・・・によるマージインプ撃退作戦が繰り広げられていったのである。





「王、王よ! なんですかあれは! サナギ! 街であんな爆発が起きると被害が出るではないか!」


 ガディス公爵が興奮して、ブライティ王と研究部大臣のサナギへ声をかける。


「ん? なんじゃガディスよ、余は魔導連結部アークリンクユニットへ街の住民達を守れとしか言っておらんぞ?」

「わ、私はまほろばとヨロズに指示を出しただけですので!」


「くっ、あんなのは聞いてないぞ!」ガディスが舌打ちする。


 王達が居るところは、先ほどの魔導連結部アークリンクユニットのメンバーが居た特殊指令室とは別の場所であった。王宮にある戦時対策用の部屋に、王を含む議会メンバーが集まっていた。


 特殊指令室のような何百ものモニターはなく、小高い場所にある王宮から全体を見渡せる映像が映った大きなスクリーンのみ。魔導連結部アークリンクユニットはいつも研究室に籠ってばかりで、ガディス公爵も、他の議会員も、ましてや研究部大臣のサナギですら、特殊指令室の存在を知らないのである。


 街の結界が破られたのも意外だったが、街を守る手段を魔導連結部アークリンクユニットが構築していた事が予想外であったのだ。聖の守護部隊セイントガーディアン以外に手柄を取られたくないのか、ガディス公爵は機嫌が悪そうに腕組みをしたまま右手の指を左腕にトントントントンと打ちつけ続けていた。


「ガディスよ、街の住民が無事ならそれでよいではないか」


――それでは困るのだよ、王よ。 


 ガディス公爵は心の中でそう思うのであった。





 キーンという金属と金属とがぶつかりあう高い音が飛び交う。その巨体からは想像つかない動きで、巨大化した腕に持った槍先を、豪快に回転させながら目の前の光妖精ライトフェアリーへ向けるキャッツヴェーン。


 そのキャッツヴェーンの槍の動きに合わせ、同じく自身が持った聖なる魔槍ホーリーランスの槍先で弾き、しなやか、かつ華麗な動きでかわすライティ。


 ライティは洗練された動きで、槍を回転させながら飛び上がり、キャッツヴェーンへと一撃を加える。


「くっ!」


 自身の顔面めがけライティの槍が突き出され、思わず後ろへ飛び、距離を取るキャッツヴェーン。


「お前も槍使いとはな! だがな、俺様の常闇の槍ダークスピアによる攻撃は、そう簡単には破れんぞ! 行くぞ、闇槍一突ダークストライク!」


 黒く禍々しい妖気が槍先から放出され、ライティへ向け、血管の浮き出た巨大な右腕から強力な一撃が放たれる!


光源の盾ブリンクシールド!」


 槍では防ぎきれないと判断したライティは魔法で光の盾を作り出す。


 槍先が弾かれる衝撃と共に、反発する力によりそのまま後退するライティ。槍の初撃を受け止めるも、禍々しい妖気が光の盾を侵食し、そのまま弾き飛ばされてしまう。


「ふはははは! 無駄だよ、その程度の魔法では俺様の闇槍一突ダークストライクは受け切れんぞ!」

「ふふ……そのようね……じゃあ次はこっちが行くわよ」


 起き上がり、片膝をついた体勢のライティがキャッツヴェーンを冷たく一瞥する。


「そんな状態で何が出来る! お前の攻撃なぞ俺様は痛くも痒くもないわ! 死ね! 闇槍一突ダークストライク!」


 再び立ち上がったライティへ向けて、闇槍一突ダークストライクを放つキャッツヴェーン……が、ライティへ槍先が届く直前、キャッツヴェーンの視界からライティが消えた・・・


「な、どこに行った!」

「ここよ! 食らいなさい! 聖星旋回槍ホーリースタースラスト!」


 ライティは、瞬間移動をした訳でも、能力を発動した訳でもなかった。キャッツヴェーンの巨体から放たれる一撃が届く直前、キャッツヴェーンの足下をスライディングで股抜き・・・をしたのだ。


 キャッツヴェーンの背後に回りこみ、そのまま一気に聖なる魔槍ホーリーランスへ正の妖気力フェアリーエナジーを注ぎこむ。前傾姿勢からそのまま旋回し、振り返った瞬間のキャッツヴェーンへ向けて、回転しながら槍の聖撃を加える。


 一回、二回、三回……流れるような美しい動きで放たれた聖撃は、筋肉隆々の妖魔の肉体にすら通る一撃だった。計五回の槍撃を受け、巨大なキャッツヴェーンの肉体に星型の傷がついた。


「ば、ば……か……な、俺様がたった一度の攻撃で……」

「終わりよ、聖槍撃突ホーリーストライク!」


 キャッツヴェーンの放った闇槍一突ダークストライクとは正反対の白い光を纏った一撃が、一気にキャッツヴェーンの胸を貫いた。


 ふら、ふらと後ずさりしながら胸を押さえ後退するキャッツヴェーン、傷口から緑の液体が溢れ出ている……。


「く、くそ……俺様が死んでもな……さっき開けた穴からマージインプの大群が……」

「ああ、その穴なら、うちの妹が閉じた・・・わよ?」

「な!? にゃん……だとぉお!?」


 穴が開いていた方向を見ると、白い魔導士風の格好をした、目の前の妖精に似た光妖精ライトフェアリーが塞いだ穴の横に立っていた。


「姉さーん、こっちは終わった・・・・わよー」


 キャッツヴェーンが開けたはずの結界の穴が閉じられ、しかもその横には何百という山積みになったマージインプの死体があった。両手をパン、パンと合わせる光妖精。


 信じらん! という表情のキャッツヴェーン! 胸の傷も忘れあんぐりとした表情のまま、自身にとって、凄惨せいさんな光景を見つめた。


「き、きさまら……何……何者だー」瀕死状態のキャッツヴェーンが目の前の光妖精達に問いかける。


「ええっーと、今はただのナースなのよね……。ただの村の診療所で働く光妖精ライトフェアリーの姉妹よ」とライティ。


「私は光妖精ライトフェアリーのレフティです。あなたのボスにこれ以上の悪事はもうさせませんとお伝え下さいね」笑顔で答えるレフティ。


「ナイトメア様が……お前等ごときに……負ける訳ないだろう……」言葉を振り絞るキャッツヴェーン。


「それはどうかしらね……さぁ、そろそろ行きましょうか?」

「そうね、姉さん」


 ライティとレフティはお互いの背中を合わせ、左右に肩を並べる体勢で、それぞれ右手と左手を出す。


「合成魔法! 高位光源弾ハイライトボム!」


 周辺の粒子が集まり、光が掌へと収縮される。やがて巨大な光の弾がライティとレフティの掌から放たれ、キャッツヴェーンを包み込む!


「ナ、ナイトメア様ぁあああああああ!」


 光の弾はキャッツヴェーンを消滅させ、跡形もなく消え去ったキャッツヴェーンの居た場所には、夢の欠片ドリームピースが落ちていた……。

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