第24話 決戦の刻

 ブリンティス村より首都ブライティエルフへライティが到着したその夜 ―― 


「みんな準備おーけーくまかーー?」

「おーけーですよ、くまごろうさん。じゃあ皆さん、行きますよー」


 小声でみんなに声をかけたのはリンクだ。


「でもリンク、あの後訓練続けるって言いながら、まさかくまごろうに隠れて映像見るように指示だしてるとは思わなかったよ?」


 雄也がくまごろうに声をかける。


「くまごろうとリンクには意思伝達があるくまー。テレパシーってやつくまー」

「まぁ、グランドグールが今西に居るなら、敵の本拠地〝アルティメイナ〟とやらに乗り込んで、親玉やっつけるのが早いって寸法だな」


 ファイリーが乗り気である。


「でも、レイアさん……悪い事したな……」


 雄也が先ほどの事を思い出す。


「仕方ないです……レイアがあんなに真剣に止めようとするなんて思いませんでした。ちょっとショボーンです」

「リンク元気出すにゃーー。みんな居るから大丈夫にゃー」

「そうですね! ありがとうブリンクさん!」


 リンクの蒼色の瞳ブルーアイズに煌めきが戻る。


「じゃあナイトメアとやらをやっつけに行きますか?」

「そうだね、訓練の成果を見せるしかないやん?」


 和馬と優斗の乗り気である。


「しかし、レイアさんってやっぱり強いね……」

「レイアは普段私の身の回りのお世話をしてくれてますが、昔は戦闘もこなしていたみたいなんです。本当はレイアも付いて来てくれると思ったんですが……」



 青い鳥ブルーバードが族長の下へ来たあの時、くまごろうに映像を代わりに見てもらい、何事もなく訓練を終えたリンク達は、自室にて、くまごろうから蜥蜴人リザートマンの村襲撃の話を聞いた。

 そして、これ以上犠牲を増やす訳にはいかないという結論に至り、夜エイト達が寝静まった後、〝アルティメイナ〟へ向け出発しようという事になったのである。


 外に出ると、くまごろう……ではなく、レイアが立っていた。

 レイアは『そんな事だろうと思いました』と皆を止めに入る。

 しかし、リンクは強行手段に出る。リンクがレイアの動きを止め、パンジーの甘味妖霧スウィートミストでレイアを眠らせたのであった。


「レイアには悪い事しちゃいましたが、明るいニュースをお土産に還って来ましょう!」

「そうだね、よしみんな出発だー」

「じゃあ行くくまーー、ふにゃあああああああーーくまーー!」


 くまごろうが魔法のじゅうたんのように大きくなり、乗り込む雄也達。

 パンジーだけはウリリンに乗って行くそうだ。

 夜更け、地面を大きく蹴り、宙を舞うくまごろうとその一行がブリンティス村を飛び立ったのである。

 

 ……ゴゴゴゴゴ――


 風の抵抗凄いんですけどーー!?





 その日の朝は静かな朝だった。 

 チュンチュンチュン……。

 耳元で小鳥のさえずりが聞こえる。


「レイア先輩ーーおはようございますー朝ご飯の準備始めましょーー? あれー? 外の掃除中ですかー? ……ってレイア先輩! どうしたんですか!?」


 いつもなら朝ご飯の準備で先に起きて厨房に居るレイアが居らず、ライティもブライティエルフに行ったきり帰って来ないので、一人レイアを探していたレフティ。掃除でもしているのかと診療所の外に出て驚く。レイアが入口付近で眠っていた・・・・・のだ。


「ん……? レフティおはようございます……あら、私こんなところで寝てしまっていたのですね……」


 寝ぼけ眼のレイア……。


「外で寝るなんて風邪引きますよ……ってその傷……どうしたんですか!?」


 見るとレイアの腕に傷がついていた。メイド服も少し破けている……。


「え……昨日どうしたんでしたっけ……確かこれはお嬢様の水の戯れで……お嬢様……? お嬢様!?」


 レイアがようやく目を覚ます!


「大変です! すぐエイト様を呼んで来て下さい! お嬢様が、雄也様達がナイトメア討伐に向かわれてしまいました!」

「え? そんな!? わ、分かりました! 今すぐエイト様を起こして参ります!」

「あんな形で眠らされてしまうとは……不覚です……」



「な、なんだって!? ナイトメア討伐だって!? 何を馬鹿な事を!」

「私が居ながら申し訳ございません」


 レイアがエイトにお詫びを入れる。


「いや、レイアさんが謝る事じゃない。手遅れになる前に急ごう。レイアさん! 一緒に来てくれ! 族長のところのケンタウロスを使って向かおう!」

「分かりました。お手数をおかけします!」

「レフティ、留守を頼んだよ!」

「はい、お任せを」


――頼むから間にあってくれ……。

 エイトはそう願う……。





 〝アルティメイナ〟に到着する頃にはすっかり夜が明けていた。


 あまり気にしている人は少ないかもしれないが、普段は〝ロングジェットコースター〟のくまごろうだが、今回結構な距離だったため、途中ブリンクと優斗の光源障壁ブリンクウォールで風の抵抗から身を守るという荒業を思いつくという件が途中あり、今に至る。優斗は『戦う前から疲れるんやけどー』とか言っていた。


 光の国ライトレシア北東の古城〝アルティメイナ〟。かつてエルフの一貴族が築き、都として栄え、やがて他貴族の繁栄と共に衰退し、滅んだと言われる古城だ。少し小高い丘の上にある城は所々崩れているとはいえ、かつての風格を残したまま佇んでいた。負の妖気力フェアリーエナジーが城から漏れているのか、空気が肌に触れる度に寒気がして来る。


「皆さん、行きますよー」


 リンクのかけ声で雄也達は覚悟決めて中へ入る。魔物や妖魔に気づかれないようリンクも小声だ。


―― きゃしゃああああああ


「うわぁ、いきなり!?」


 雄也が思わず叫ぶ。数体のインプが飛びかかって来たのだ!


「お腹すいたにゃーー!」


……ブシュア!


 ―― ぎゃあああああああ


「お腹すいたにゃーお腹すいたにゃーー!」


……ブシュア!


 ―― ぎゃあああああああ


 どうやらブリンクは夜の移動と光源障壁ブリンクウォールの使用でお腹がすいたらしい。不機嫌なブリンクの光印爪ライトクローが炸裂し、周囲のインプが一瞬で引き裂かれた。


「ブリンクってお腹すいた時の方が強いんじゃないか?」


 いつもなら先陣を切って攻撃をするファイリーよりも素早かったため、思わず称賛するファイリー。


「そんな事ないにゃーーお腹すいたにゃーー」

「何回言ってるんだ?」

「お腹満たされるまで続くのかな?」

「ブリンク僕の保存食食べる? ドライフルーツだけど……」

「にゃーーいただきますにゃーー」


 飛びかかるかのようにパンジーが道具袋から出したドライフルーツを掻っ攫うブリンク。


「旨いにゃーーでも足りないにゃーー」

「道中牛馬ミノホースでも捕まえて焼いて食えばよかったな」

「ブリンクこの飴でも舐めてもうちょっと我慢してよ」


 優斗、なぜ鞄に飴が入っている? と思う雄也だったが、


「キラキラしてるにゃーー! なんだこれにゃーー! いただきますにゃーー!」


 バリバリボリボリ――


「いや、ブリンクそれ舐めて食べるんだよ……って聞いてないか……」

「旨いにゃーー甘いにゃーーキラキラにゃーー元気出たにゃーー」


 優斗が飴をあげた事で元気になるブリンク。


「元気百倍! ブリンク・ライリーにゃーー」

 いや……ブリンクその台詞は止めた方がいいかもです、はい。


……ブシュア!

 ―― ぎゃああああああああ

 インプの身体が真っ二つに引き裂かれる。


……ブシュア!

 ―― グォオオオオオオオオ

 こちらの呻き声はグールだ。


 この後もブリンクの快進撃が続く。インプとグールを次々に倒していく。


 数が多い時はパンジーの痺れの花粉や蔓縛りクリープバインドで動きを封じる。強敵に備えてリンクとファイリーは先頭に出さないようにしていた。


 魔力も無限ではない。強敵相手だと温存も考えなければならない。相手がマージインプやハイグールになっても一緒だった。


 使役した状態で放つブリンクの光印爪ライトクローは、あの聖の討伐部隊セイントアドバンスが使っていた浄化魔法、昇天光射ターニングと同等かそれ以上の威力だったのだが、本人達は知る由もない。


 マージインプが水爆砲アクアを使って来た時はリンクがぷんぷんしていた。『水はそんな使い方をしてはいけません』だそうだ。お手本とばかりに三倍近い威力の水爆砲アクアを放つリンクに対し、雄也が『いや、リンク……魔力温存しようよ』とたしなめる事もしばしば。

 

 全員大きなダメージもなく、城の奥へ奥へと進み、吹き抜けのような広い場所へと出る。


「お、おい、あそこ! 何か刺さってるぜ!」


 ファイリーが走って行った先……立派な剣が地面に刺さっていた。


「凄いですね……これ……この柄の部分の模様……光の国ライトレシアの紋章ですよ」

「この剣あたいが貰っとくよ。剣も使われた方がありがたいだろう」

「持ってっちゃっていいのか?」

「大丈夫だって……持ち主居ねーし」

 

 ガラッ――


 その時ファイリーが何かを踏んだ。

 剣に夢中で気づいていなかったが何かがそこにあった。


「ん……何か踏んだ……っ!」

「え? どうしたファイリー……!?」


 そこで初めて周囲の異常さに気づく一同。


「うぅ……」雄也が気持ち悪くなりその場にうずくまる。


 そう、吹き抜けには五百近い聖の討伐部隊セイントアドバンスの亡骸があったのだ。腐食し、骸が剥き出しとなっているもの……腐敗した嫌な臭いも漂っている。


「ひ、ひでぇ……」

「や……やばいやん……」

「これ……グランドグールに全滅したって言ってた聖の討伐部隊セイントアドバンスの皆さんでしょうか?」

「恐らく……そうだろうな……」


 ファイリーも顔をしかめる……。


「……」


 パンジーは一輪の花を出し、目を閉じ黙祷していた。


「酷いにゃーーこんなの許さないにゃー」


 ブリンクがそう言ったその時……


 ―― ほほう……誰を許さないのかね?


 !?


 吹き抜けの奥、声が聞こえた先には、

 大きな階段をゆっくり降りて来る黒い影があった。

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