第9話 記憶の魔法陣~メモリーサークル~
水無瀬先生に連れられ……水霊神社の拝殿へ行く前に準備があるという事で、隣の社務所のようなところへ案内された雄也達だったのだが……。
「アラタミヤ高校人気保健医ランキング 第1位ーー! 『え? この人人妻なの? いやいや、結婚してなかったら俺、絶対プロポーズしてたぜ!』『いつ見ても素敵よねー』『私あこがれちゃうー』街中ですれ違った人がみんな振り返る、こんなに美しくてごめんなさーい。かくしてその正体は……」
「はぁ」
三人が同時にため息をつく。
「姓は水無瀬、名は葉子、水無瀬葉子! み・な・せ・よ・う・こ! あなたのハート……いただきよ!」
「先生、病院行った方が……」
「ゴホン! 今何か言いましたか?」
「いえ……何も……」下を向く優斗。
「先生……俺達こんな事してる場合じゃないんですけど……」和馬が飽きれた表情でそう告げる。
「だいたい私が登場するのが遅すぎでしょう! 最初にうちの娘が水鈴を渡した時点で私にお礼を言いに来るのが筋ってもんよー。『ありがとう! 僕らの水無瀬先生! 麗しの姫君ー!』ってね」
「いや、この人よく結婚出来たよな……」と呟く和馬。
「あの、葉子お姉さん……帰っていいですか?」雄也までそう言い出す始末だ。
「今回ただでさえ出番が少ないんだからこの位アピールさせてよね」
――いや、今の誰宛の発言ですか、水無瀬先生。この人は何の話をしてるんだ?
と雄也が思っていると……。
「ママーー準備出来たですよーー」
「あ、ありがとう三葉! さ、行きましょうか」
という訳で、水無瀬先生自身について語るトークショーが繰り広げられていたのが、いつの間にか娘の三葉が拝殿で何か準備をしていたらしい。
――いや、疲れる。これは疲れる。確かに年齢にしては綺麗なのかもしれないが、年齢とキャラクターとのギャップがきつい……。
――まぁ、これは、本人が楽しんでやっているのならいいのか。準備ってそんなに時間がかかるものなんでしょうか? これショッピングモールの一回分のトークショーくらいの時間は経っていた気がするんですけど。いや、このくだりがどうでもええわ!
どうでもいいくだりでよっぽど帰ろうかと思っていた三人……だったのだが、拝殿についた三人は驚愕する事になる。
拝殿の床には、神社に不釣り合いな魔法陣が描かれている。陰陽道のそれではない。明らかに西洋か、いや、これはむしろ異世界のものだ。
「水無瀬先生……これは?」驚きの表情を隠せない和馬。
「さて……何から説明しましょうか? 〝
いや、そうじゃない……ここで聞く事は……。
「……あなたはいったい……何者なんですか?」
雄也の問いかけに、水無瀬先生はうっすら笑みを浮かべた。
「この魔法陣は妖精の
三人は黙って水無瀬先生の話を聞いている。
「もちろん、
「先生はなぜそんなに
「そうね、詳しくは話せる時になれば話すわ……一つ言える事は、この水霊神社は
「ええと、それはつまり?」
「妖精界と人間界を繋ぐ場所として、人間界を監視し、何かあった時に備えて末代へその存在を伝承していく場所、という事になるわ。つまり私もそこに居る三葉も、妖精の存在を知っていて、そして、今回の
「ええっと、じゃあ俺たちはこの魔法陣で妖精界へ行く事が出来る……という訳ですか?」
「恐らく資格は備わっているはずよ。まぁ、この魔法陣で人間界から妖精界へ行く人間が実際に出てきたのは十数年振りの出来事でしょうけどね」
水無瀬先生が、雄也の質問に笑顔で答える。
それに対し、
「それ、人体実験みたいで嫌なんですけど?」と苦笑いの優斗。
「にしても先生、俺たちが妖精と契約してるって……一体どこまで分かってるんだよ?」
和馬は未だ、あんた何者なんだよ、というような表情だ。
「そうね……歴代の巫女はね、ある程度
「あ、そうだ、鈴……最初から受け取ってた事になってたんですけど?」
「そうね、確かに上手い具合に事象が書き換えられているわね。一回目の出来事もうっすら覚えてはいるから、そこは心配いらないわよ。その鈴は、代々水妖精と契約する資質がある者へ引き継がれて来た鈴なの。かつての
どうりでエレナの水鈴って王妃が言っていた訳だ。気づいたら契約していた事になっていたし。
「じゃあ優斗や俺はどうなるんだ? 俺達も資質があったって事か?」
そう尋ねたのは和馬だ。
「向こうに行ったら分かると思うけど、貴方達を
「え? それってどういう?」
驚いたように反応する雄也。
「同時に三人もの適合者が出てくるのは恐らく妖精界にとっても稀でしょうしね。きっと他の国からもそのうち
「それだけの事を知っていて……それだけの力を持っていて……水無瀬先生は妖精と契約しないのですか?」
雄也が疑問を口にする。
「しない……というか出来ないのよね。聞かなかった? 大人になったら夢みる力はある程度しか扱えなくなるのよ? 私には
「えへん。凄いでしょうー、この魔法陣も私が描いたのよ」と得意気な三葉。
こんな齢十歳の子が描いた魔法陣で果たして大丈夫なのだろうか。
不安気な表情の三人を見て、水無瀬先生が笑う。
「そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫よ、きっとうまくいくわ。そして妖精界での健闘を祈っているわよ。あ、それから、今後
まぁ、不安ではあるけど、現時点で頼る場所がここしかないのでどうしようもない。
「という訳で、私と三葉はここで留守番してるから。妖精界に異常が起きているのなら、恐らく行方不明事件も関係していると思うわよ。貴方達が残り五人の子供達を無事に助ける鍵であり、妖精界を救う救世主になる可能性も秘めていると言っても過言ではないわ。頑張ってね」
本来進んでそんな役回りを引き受ける雄也ではないのだが、巻き込まれてしまっては引くに引けない状況へと追い込まれてしまっている。元々そんな主人公気質ではないんだけどなぁ、そう思いつつ雄也は魔法陣の中へ足を運ぶのであった。
「よし、じゃあ妖精ハーレムを期待しつつ行きましょうかね!」と違う意味で張り切る優斗。
「俺が妖精界の英雄になってやるよ」いや、和馬ってどんだけの自信なんだよ……。
やがて、目を閉じ念じ始める三葉……。
「さぁ、行きますよ――彼の者達を正しき道へ、正しき者を正しき場所へ ――妖精界の主よ、自然界の調停者よ、精霊の王よ、記憶を基に導きたまへ。
三葉の言い終わると同時に魔法陣が光を放ち始める!
「えぐっ、えぐっ……この話……感動ですう……特にこの何も出来なかった主人公が天才的なライバルと努力で追いついて、お互いすれ違いながらも最後は共通の敵を倒す……感動です……涙が止まりません……」
「お嬢様ー、お嬢様ーー。やはりここだったのですね……って! お嬢様! どうされたのですか?」
リンクを探して
雄也達が妖精界へもう一度渡る術を模索している頃、リンクは本を読んでいた。いや、本というか、人間界の漫画だ。忍者が主人公の青春ストーリー漫画である。桃太郎、スノーホワイト、人間界の島国にある漫画、歴史小説、音楽の教科書、腕がびよーんと伸びる主人公の同じく島国の漫画、人間界の百科事典……などとランダムに並んでいる本のラインナップが凄い。
リンクは今まさに忍者が主人公の漫画をようやく読破したところであった。そんなタイミングでメイドのレイアが訪ねて来たものであるから、溢れる涙が止まらないリンクの姿を見て驚くのも当然であった。
「えぐっ……レイア……私は大丈夫ですよ……それよりレイアも、これ読んでみて……本当素晴らしい話ですよ」
「な、何かと思えばまた人間界の本を読んでいたのですね。リンク様本当に本がお好きなのですね」
「人間界の本は素晴らしいよー。妖精界にはない物語がいっぱいあるのー。こんな素晴らしい文化に触れあえるこの図書館はこの国の宝です! シャキーンです!」
と強い表情になるリンク。シャキーンを顔で表現しているらしい。そのシャキーンはどの本から仕入れた知識なのか……誰も知る由もないのだ。
「図書館が国の宝であるという事は私も同意です。それよりリンク様……
「えぇ、本当に? 雄也さんにまた会えるんですね!」
ぱあっとリンクの表情が明るくなる。
「くまごろう、くまごろう! 居る?」
リンクが名前を呼ぶとどこからともなく鳴き声が聞こえてくる。
「にゃぁあああああくまーー、呼ばれて飛び出たくまごろうーーくまー!」
「くまごろう、すぐにウォータリアの森へ向かうよ!」
「わかったくまーーお出かけくまね」
「いえいえ、リンク様? 雄也様に使役してもらえばすぐに雄也様の側へ行ける訳ですから、わざわざ出向く必要はないのでは?」
「嫌なの! 直接迎えに行かないと気が済まないのー」ぷくーっとふくれるリンク。
「分かりました。でしたら私もお付きとして一緒に参りましょう。」
「ありがとう、レイア、さぁ、くまごろう、参りましょう」
「了解くまーー! 全速力で行くくまーーにゃああああああくまーー」
雄也達とリンク達の再会は近い。
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