第71話 結婚するということ
『というわけなんだけどね、お姉ちゃんたちはどうだったの?』
電話の向こうでお姉ちゃんの、明らかにケタケタ笑う声が響いている。
『つーか、プロポーズ無くして挨拶はあるまい』
『プロポーズは……』
『さ、されてんの?』
『うーん、まぁ、そうだなぁ』
『されてんのね!』
『……まあ』
今度は電話の向こうで身悶えしているらしい。
『ねぇ、ねぇ、なんて言われたの?』
『お姉ちゃーん、明日行くから、その時に話すよ、じゃね!』
……。
相談どころじゃない。お姉ちゃんのテンションが勝手に上がって、何も聞けない……。
明日は、この間泊めてもらったお詫びに、啓とお姉ちゃんのとこに遊びに行くことになった。で、お姉ちゃんの強い希望でディズニーランドに行くらしい。まぁ、丸一日ってことはないだろうし、啓も一緒なら無理もする必要ないから安心。
プロポーズか……。
「気が早いのはわかってるんだけど……社会人になったら……オレのところにお嫁に来なさい」
あれだよねぇ? 啓はよく、色んなことを言うけど、結婚に関しては……あれのことだと思う。あのときの勢いだと、卒業したら就職、そのまま結婚て感じだったけど、美夜ちゃんたちもそんなに簡単に行かなさそうだし……。
お姉ちゃんたちだって、社会人になってから知り合ったわけだし。お互いにちゃんと収入があるから認められたわけだし。
卒業してすぐなんて、啓は勢いで言い出したんだろうけど……。まず収入が安定しなければ実際、結婚してもやっていけない。ふたりで働けばいいんだけど、……子ども、もできるときが来るんだよね、きっと。
んー。
その辺の実際のところを、お姉ちゃんたちはに聞けばいいんだよね。
啓のバイト明けの時間……つまり0時過ぎに、いきなりLINEが入った。
わたしは啓がバイトだということもあったし、明日はお姉ちゃんのところに集合ということになって、自宅の自分のベッドでごろごろしていた。
『明日はスカートは禁止。疲れにくい格好で来ること。怖くて乗れなさそうだったら、できるだけ早めに言うこと。それから、 迷子にならないように手を繋ぐこと!』
了解。
『せっかくだから楽しもうね。オレあんまり行ったことないから、すげー楽しみ』
OK!
ミッキーがOKを手でかたどるアニメーションのスタンプを押す。
返事は、ミッキーがジャンプして喜ぶスタンプだった。
啓の実家は神奈川だと聞いているので、ディズニーランド、慣れてる人も多そうだけど……勉強、がんばってたのかなぁ。すごくガリガリやっている人には劣るけど、啓は成績がいい。
受験勉強みたいにすごーくたくさん勉強しなくちゃいけない授業もあって、そういう授業も時間をうまく作って勉強してるみたい。
それとは別に、実習だって手際がいいし、フィールドでの実習ではリーダーシップもある。特に手際の良さは、指示されたことに対する理解度の高さが大きいんだと思うんだよなぁ。
尚更、啓の能力のことを考えると、院に残るとか、自分に合うゼミに入って納得のいくところに就職してほしいなと思う……。わたしなんかを基準に、将来を決めて欲しくないなぁ。
翌朝はとにかく傘はいらないよねって天気で、わたしは小さめのリュックを背負って、日焼け止め用のショールと折りたためる帽子を持った。
そろそろうちを出ようかなぁと忘れ物を確かめていると、
「ピンポーン」
と軽快なチャイムが鳴った。
「風、たまには出て!」
「はーい」
スリッパをパタパタ言わせながらモニターを見ると、……だよね? うん、想定内としよう。
ドアを開けてささっと外に出て、ドアを閉める。
「おはよう、よく晴れたねー」
啓はひどくご機嫌で……それはそうだ、行きたいところに行くんだもの、うれしいに決まってる。
ガチャと音がしてお母さんが顔を出した。お母さんの驚いた顔もすごかったんだけど、それよりも、こんなときにでもマイペースを貫く啓が驚きだった。
「風さんとおつき合いさせていただいてます。生物学科3年、
美しい45度の覚悟で、啓は挨拶をした。顔だけ出したお母さんは本当に魂抜けたみたいになってるし……。とうとうお父さんまで出てきた。
「ああ、小清水くんだね。いつも風がお世話になっているね。風はまるで家事ができないけど、食費くらいはちゃんと君に渡してるかい?」
啓もさすがのお父さんの出現に驚いたのか、即座に答えられずにいた。手が、啓の両手の拳が、気のせいか少し震えてみえた。
「風さんは、風さんなりにがんばってくれてますし、それから食費という名目で金銭はいただいていません」
啓はそこで息を小さく吐いて、
「お許しをいただけたら……、ぼくは卒業して就職後、風さんをいただきたいと思っています。今の状態で既に金銭的に困るようなら、とても結婚生活はできないだろう、と思って生活しています。……すごく生意気なことを言って申し訳ありません!」
お父さんは満面の笑みだった。
「風、時間はまだあるの?」
「うん、30分くらいなら。ていうか、お姉ちゃんとの約束だし」
「じゃあ、お父さんがお前たち送っていくって言っておけよ」
「あ、うん」
急いでお姉ちゃんにLINEする。お母さんはなんだか急いでお茶の支度始めるし、お父さんは遠慮する啓に上がるよう、勧めてる。
『お姉ちゃん、紆余曲折あって、お父さんがお姉ちゃんのとこまで送ってくれることになりました。詳しくは会ってから話すと思うけど……』
『何めんどうなことになっちゃってるの?行った方がいい?』
『ううん、手遅れだと思う……』
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