パーティの始まりだ

「ふう……」


 また静かになったな。


 コーヒーに満足したのか古園先生は部室を出て行った。


 色々と言われたが、持ち込んでいる物に対して怒っている風ではなかったな。懐が深いのか適当なのか。同好会から部への昇格はめんどうだからこのままらしい。


 ぼけっとコーヒータイムを楽しんでいると、それをブレイクするように扉がノックされた。


「はーい」

「失礼します」


 また相談者か。確変入ってるな。


 先輩の女子生徒だ。頭が良さそうに見えるのは眼鏡の力だろう。


「つまらないことなんだけど、言っておいた方がいい気がして」


 まあそういうところなんで。世の中には不思議なことがあるんですよ。


「えっと、ここね。聞き慣れない音がしていたのよ」


 地図を見てもらうと、またもや公園の近くらしい。


「何かの機械とも思ったんだけど、動物の鳴き声にも聞こえてきて」

「なるほど」


 穴の影響も色々とあるもんだな。


 原因の究明を約束してお帰りいただくと、窓から魔女が突撃してきた。


「びっくりしたなあ……」

「一人?」

「二人目の相談者が来たから、そっちに三人で行ったな」

「そう」

「そしてついさっき、三人目の相談者が来た」

「次はどこなのかしら?」

「公園の近くだ。で、穴はどうだったんだ?」

「痕跡はあったのだけれど、なくなっていたみたいね」


 空振りだったか。


「しかし、相談がきたとしてもそれじゃ拍子抜けというかなんというか」


 無駄足だな。


「急すぎる気はするわね」

「急って?」

「おそらく相談のどれも昨日今日の出来事なのだと思うわ。それですでになくなってしまっている、というのは少し気になるところね」


 どういうものかなんて正直分からないんだが、普通ではないらしい。


「それじゃあ、もう一つの場所に行ってこようかしら」

「後は俺が部室閉めとくから、エルフ野さんを見たらそう言っといて」


 もしも早くに終わってここまで帰ってきたらなんだからな。公園なら近いだろうし。


「分かったわ」


 乃真路がまた窓から飛んでいった。こう相談があったらあったで忙しそうだな。


「……もうちょっと読んでくか」






 部室を出て鍵を閉める。古園先生にその鍵を返して学校を出ると、すでに街灯が灯っていた。部活が終わるのにいい時間なのか、体操着を着ている生徒が目に付く。


 電車に揺られてホームに降りる。なんとなく買い物に行く気分でもない。かといって外食に行くのもな。カップ麺でいいか。


「ただいまー」


 いつもの儀式を済ませて家に上がる。


「ふう……」


 ごろりと寝転ぶ。何もやる気が起きない。明日は休みだったっけ。このまま寝てしまってもいいか……。


 ピンポーン。


 インターホンか……。起き上がるのがめんどうだ。まぶたが重すぎてどうにもならない。


 ピンポーン。


 ……。


「はあ……起きるか……」


 行動を口に出して気合を入れる。ふんぬ、と立ち上がってそのまま玄関へと向かって扉を開けた。


「あれ、エルフ野さん……?」


 何このデジャブ。


「憂瀬さん、着替えを用意してください」

「……着替え?」


 てっきり飲みに行こうぜ、と言われるのかと思ったんだが。どうやら違ったらしい。


「今日は乃真路さんのお家でお泊りです!」

「……」


 何だって?






 夜に箒に乗るってのはまた一味違うな。こっちの方がだいぶ怖い。着替えやらを入れた鞄を抱えてエルフ野さんの後ろで震える小鹿のごとくだ。バスじゃ物足りないとか言ってごめんなさい。


 でも、眼下に広がる景色はきらきらと輝いていて、どこか夢見心地にさせる。


 あっという間に目的地の公園に到着したようで、グラウンドに降り立つ。さすがにこの時間は人がいないらしく、明かりも少ない。


「こっちですね」


 そして、まったく明かりのない木々の中を歩いていく。素直に怖い。


 少しすると明かりが見え始め、乃真路が住む家が現れた。


「にゃあ」

「お出迎えか」


 玄関を開けるとノキシタが座っていた。よくやってきたな小僧、みたいな感じ? 猫の言葉はまだ難しいようだ。


「お! 来たな兄ちゃん!」

「まあな」


 よく分からないまま連れてこられたが。合宿かなんか?


 そのまま部屋に入ると以前はなかった長テーブルが出されていた。その上にはクッキングヒーターと鍋が置かれている。


 鍋パーティ?


「もう食べられるわよ」

「……乃真路は料理キャラだったのか」

「鍋くらい誰でも作れるわよ」

「那穂と那緒はどうだ?」

「兄ちゃんさあ、料理ってのは作るものじゃなくて食べるもの、なんだぜ?」

「そうそう」

「だってさ」

「やれば簡単よ」


 乃真路は手に持っていた缶詰を開けて床に置かれた器に中身を移した。待ってましたとそこへノキシタが突撃する。高そうなやつだな。使い魔を飼うのも金がかかりそうだ。


「早く食べようよー」

「食べようよー」

「ほら、憂瀬と乃真路さんも早く座りましょう!」


 エルフ野さんも混じっちゃって……。


 まあお腹は空いているわけで。座っていただきますをする。


「……素直に美味しいな」

「本当に美味しいです」


 出汁はあっさり系で優しい味だ。具材は白菜にねぎ、春菊、大根、もやし、そして豚肉に鶏肉。いいね。


「まじうめー!」

「まじ姉には料理番長の称号をあげたいと思います!」

「結構よ」


 まあ出汁以外は食材を切るだけといえばそれだけなんだが。その出汁がね。


「で、何で急にこんなことに?」

「それはですね」


 かくかくしかじかで話を聞くと、どうも収まっているとはいえ、穴の発生が一度に近辺で、複数箇所に渡って起こるというのはやはり異常事態なのだそうだ。


 そこで、乃真路の家が穴の発生地点である公園周辺ということもあって、近くで監視をすることで即座に対応してしまおうという作戦らしい。


「あんまり俺は役に立ちそうにないけどな」

「おいおい兄ちゃん、さぼろうたってそうはいかないぜ?」


 そんなつもりはないんだが。こいつらはどうせ遊びたいだけだろうしな。


「中華そばとうどんがあるのだけれど、どっちにする?」

「そば!」

「うどん!」


 そこは分かれるのか……。


「両方食べましょう!」

『賛成!』


 欲張りかよ。

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