少し……この風……

 部室の鍵を開けて中に入った。


 今日は一番乗りだ。クラスの担任が顧問だから、すぐ鍵をもらえる俺かエルフ野さんが開けることになっている。


 まずは窓を開けて空気の入れ替えをば。


「ふう……」


 カーテンがたなびいて、部屋の中に温めの空気が運ばれてきた。今の時期からこれじゃ、先が思いやられそうだ。


 あれ、これは……。


 棚の横にある、白い長方形の置物が目に入った。前までなかったよな……。正面に付いた取っ手をつかんで開くと冷気が漏れ出てくる。冷蔵庫だこれ。


 その中にはペットボトルに入った水にお茶が入っているようだ。さすがにお酒の類は見当たらない。そこまで非常識じゃないか。


 いつの間に持ってきたんだか……。というより、よく持ってこられたなと言うべきだな。小さいとはいえ一人じゃ結構な重労働になりそう。


「ちょりーす!」

「那緒ちゃんさんじょーう!」


 扉が勢いよく開いて双子が入ってきた。こいつらは静かに入るというのが出来ないのか。


「二人は同じクラスだったか?」

「そだよん」


 双子で同じクラスだとややこしいよな。学校も何故そうした。


「今日は風が騒がしいわね」


 続いて扉が開いたと思えばこれだ。乃真路もそれっぽいことを言わずに入れないのか。


「ほほう、それは事件のにおいがしますな」

「犯人は兄ちゃんだ!」

「俺は真っ先に殺されるタイプだから」


 それかただのモブ。


 さて、今日はどの本を読むかと本棚を眺めていると、扉がノックされる。エルフ野さんじゃなさそうだな。


「ここ、ELFの会で合ってる?」

「くっくっく、ここをただのELFの会と思ってもらっちゃあ困るってもんよ」

「……?」

「いや、気にしないでいい。ELFの会で間違いないから」


 同学年の男子生徒のようだ。


 とりあえず椅子に座ってもらい話を聞いてみると、通学中に変なにおいがしてきたらしい。


「ここらへんかな」


 地図を広げて確認してもらうと、駅と反対の方向のようだ。


「こんなことで相談に来るのもおかしな気がしたんだけど……」


 まあそれはエルフ野さん特性の魔法なんでね。しっかりと引っかかってくれたわけだ。相談者ほいほいの面目躍如ってとこ。


 原因の究明に全力を尽くすと胡散臭い約束をしてお帰りいただいた。


「それじゃあ、ちょっと見てこようかしら」

「エルフ野さんに任せてもいいと思うけど」


 むしろエルフ野さんが行かないとどうするんだって話でして。


「どちらが行っても一緒でしょう?」


 どうやらやる気らしい。エルフ野さんはまだ掃除中だろう。間が悪かったな。


 乃真路はマントと箒を取り出して、そのまま開いた窓から飛んでいった。


 そうか、いまさらだけど、わざわざ路地裏から飛ぶ必要性もないのか。


「ちぇー、まじ姉だけお楽しみかー」

「二人は穴を塞げないのか?」

「うーん、どうだろうなー」


 もしかして、できるとでも?


「兄ちゃんさあ、気合を入れればなんだって出来るんだよ?」


 いや、そうもいかないと思うが。


「お?」


 またもやノックされる扉。


「失礼しまーす」


 次は先輩の女子生徒か。今日はいやに多いな、といっても二人来ただけなんだけど。


 話を聞いてみると道に何匹ものカラスがいたらしい。場所は乃真路の家がある公園の近くということだ。


 言うことはそれだけだと、多少疑問に思いながらも女子生徒は部室を出て行く。


 そして、その先輩と入れ替わるようにしてエルフ野さんがやってきた。


「今のは相談者の方ですか?」

「ここにカラスがいっぱいいたんだってさ」


 地図を指し示して説明する。


「なるほど。乃真路さんはまだいらしてないのですか?」

「もう一人相談者が先に来て、そっちに行ったな」

「そうでしたか。では、私達はここまでバスで向かいましょう」

「あー、俺は部室で残ってるよ」

「そうですか?」


 どうせ役に立たないしな。部室にいた方がなんぼか有用だろう。


「那穂は行きたーい!」

「那緒も那緒もー!」

「……迷惑かけないようにな」

「ちっちっち、兄ちゃんと一緒にしないでもらいたいね」


 どの口が言ってんだか……。


「それでは行ってきます」


 三人を見送って一人になる。静かになったな。


 お湯を沸かしてコーヒーを淹れると部屋の中にいい香りが広がった。


 どれにしようかな、で本棚からライト級の小説を取る。よくもこれだけ魔女の小説があるもんだ。これなんてパンツじゃないから恥ずかしくないらしい。


 ふう……美味しい……。


 コーヒーを飲みながら小説を読む、ここは文芸部だったのか。


「くあ……」


 実に平和だ。


「おーす」


 急に扉が開いたかと思えば入ってきたのは古園先生。ちょっとびっくりするからノックとか、そこらへんお願いしたいところ。


「何だ、一人なのか」

「お留守番ってやつですね」

「そうか。うまそうなものを飲んでいるな」


 先生は向かいに座って頬杖をつき、こちらをじっと見る。


「あの、これ飲みますか?」

「ほう、飲みさしを飲ませようとは教育がなっているらしい」

「いえいえ、もちろん新しく入れさせてもらいますよ?」

「妥当だな。そこのメイド服を着て、もてなしてくれてもいいんだぞ?」

「それは勘弁してください」


 早速お湯を沸かし、コーヒーを淹れて差し上げる。美味しい淹れ方など分からないが、こういうのは気持ちが大事だから。あれだ、担任と顧問としての日々の感謝とか?


「お待たせしました、お嬢様」


 最高のコーヒーを先生の前に置く。


「馬鹿にしているのか?」

「……さっきメイド服とか言ったからじゃないですか」

「ではいただこう」


 まったく、距離感をどうしていいか分からない人だな。


「ふむ、まあこんなものか」


 なんとか許してもらえたようだ。そもそものコーヒー豆がいいんだろう。


「しかし、ここもすっかり様変わりだな。丸太に、冷蔵庫か?」

「悪いことはしてませんよ?」

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