スーパーこまちゃん参上

「……朝か」


 枕横のスマホを見ると時刻は十二時。昼だな。


 今日は日曜日、野球の試合の日だ。十四時からだから、十三時に出れば十分間に合う。


 顔を洗って少し食べて歯を磨いてトイレして着替えているとインターホンが鳴った。カメラに映っているのはエルフ野さんだ。


 準備は済んだのでグローブと財布にスマホ、鍵を持って外へ出る。


「憂瀬さん、おはようございます」

「おはよう」


 エルフ野さんの顔を見ると、寝ぼけていた頭の回線が繋がりだす。今日もいい天気らしい。


「中止にはなりそうにないな」

「頑張りましょう!」


 そんなにコロッケが食べたいのか。


 結局腹痛は治らずと。後藤先輩から聞いたところによると回復傾向にはあるみたいだがな。ウォシュレットがあるとはいえ、ケツは使い物にならなくなっているだろう。下痢が一番きついのである。


 ここには箒がないのでまずは電車だ。箒にしてもマントにしても、きっちり回収されるんだよな。マントを公衆浴場に持ち込むとでも思われているのだろうか。失敬だな。


 現地集合のため、電車の次はバスに乗り込む。休日に体操着だと部活動だとでも思われるのかな。まあ部活動には違いないんだが。


「ちょっと緊張してきたな」


 正直なとこただの数合わせではあるんだけど。足を引っ張りそうで怖いというか。道連れにに田所と篠田を誘ったともいえる。


「大丈夫です! 私達なら勝てますよ!」


 この謎の自信よ。謎じゃないか。これだからエルフ野さんってやつは。


 窓から外を眺めていると川沿いになる。ここらだな。ぽちっとボタンを押して下車する。


「確か河川敷でやるんだったよな」

「あそこですね」


 広い河川敷の一部がむき出しの土になっており、そこに白線が引かれている。面白い場所だな。川に入るとホームランになるのか。


 すでにメンバーは揃っているようだ。キャッチボールをしているところへ近づく。


「お、来たね」


 今日は田所も無事に参加しているらしい。この前はずっと木陰で練習を見てたらしいからな。普通に入ってこればよかったのに。


「で、この人は?」


 体操着で構成された中で一人だけ違う格好の人が。


「カフェで働くこまちゃんだよ」

「始めまして、生駒いこまと申します。よろしくお願いします」

「あ、どうも。憂瀬です」

「エルフ野です。よろしくお願いします」


 知り合いかなんか? カフェっていうとコーヒーが美味しいとこか。なるほど、店の制服なんだな。スカートなんだけど、着替えなくて大丈夫?


 相手チームはきっちりとユニフォームで揃っている。表情を見るに余裕そうだな。まあ半数以上が女子じゃ仕方ないか。その女子が主力なんだけど。


「那穂たちから攻撃だってさ」


 気合を入れたいところだが、それでどうにかなるものなのか。しかし、相手の薄ら笑いを見てると一矢報いたくもなってくる。






「……」


 一回表の攻撃が終わったと思ったら六点入ってた。


 エルフ野さんヒット。那穂ヒット。那緒ヒット。生駒さんホームラン。後藤先輩ヒット。乃真路ホームラン。俺三振。田所三振。篠田三振。


 おかしいな……。こんなはずでは、と思いたいのは相手のほうか。あのベンチの落ち込みようよ。


「乃真路までホームランって……。インチキ?」

「インチキとは失礼ね」

「魔法じゃないのか?」

「魔女だもの。魔法ぐらい使うわよ」

「……なるほど」


 何も言えねえ……。


 さて、次は守備か。


「っしゃー! しまってこー!」


 ピッチャーは那緒でキャッチャーは那穂か。そして俺はセンターと。


「せいやー!」


 気合の入った投球。


「およ?」


 普通に打ち返されたな。ボールはライトに抜けて、打者は一塁で止まった。


 守備は手を抜けなさそうだ。


 しかし、次のバッターとその次のバッターは三振だ。次の四番はピッチャーもしていた大学生。投げるも打つも相手チームで一番ってことか。


 頼むぞ那緒。センターにだけは飛ばさないでくれよ……。


「センターいった!」


 マジか……。


「っ!」


 特大のフライだ。大丈夫、落ち着け……。フライを捕る練習もしてきた。追いつければ簡単だ。これは、いける……!


「兄ちゃん川!」

「え……?」


 っとと! あー……。ホームランコースですか……。これは悔しいな……。絶好の見せ場を作れそうだったのに。


「やはり無力……」

「大丈夫です。肩をお借りします」

「肩……? っと、うお!」


 振り向くと全力で走ってきていた制服姿のお姉さん。俺の手前で超ジャンプして肩に足を置き、さらに高く飛んでいく。


 っく、太陽が眩しくて状況が分からない……!


「キャッチです」


 着地した生駒さんのグローブにはしっかりとボールが挟まっていた。


「すいません。肩を汚してしまいました」

「気にしないでください」


 ぽんぽんとはたいてくれた。スパイクだったら抉れてたな。


「すごかったですね」


 まるで人間業とは思えないようなバイタリティぶり。


「いえ、私だけでは捕れませんでした。グッジョブです」


 ちょっとは役に立てたのだろうか。






 試合が終わってみれば十九対四のコールド勝ちだった。帰っていく相手チームの哀愁漂った背中には少し同情したくなる。


「いやー! 本当にありがとう! みんなすごいね!」

「喜んでくださって良かったです」


 練習見てたけど予想以上だったわ。一部インチキもあったみたいだが。


「これから私の家で祝勝会をしよう!」

「それはいいですね!」


 今日一番の笑顔だな。


「田所さんと篠田さんはお時間大丈夫ですか?」

「ひゃ、ひゃい! 大丈夫です!」

「うん、僕も大丈夫だよ」


 こっちも今日一番の気持ち悪い顔だな。


「生駒さんって何者なんだ?」


 こそこそと那穂に聞いてみる。


「ふっふっふ、こまちゃんはスーパーこまちゃんなのだ!」

「……」


 ダメだ、分からん。


 ま、何でもいいか。とりあえず、相談事は無事片付いたってことで。

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