亜空間へのゲートはビームで吹き飛ばすもの

「ふう……。コーヒーも美味しいな」


 先生好みらしいコーヒーを部室でいただく。割と有名なカフェらしいのだが、ちょっとオシャンティな雰囲気があるところなので双子に買ってきてもらった。カフェってコーヒー豆も売ってくれるんだな。まあ淹れ方は素人だから味は落ちるんだろうけど。


 これで古園先生が襲来しても気持ちよくなってもらえそうだ。


 今日は野球の練習はお休み。筋肉痛なのは関係なく、腹痛の原因の調査のためだ。こちらがELFの会の本来の目的とも言える。


「それにしても、穴の影響で腹痛ってのはありえる話なのか?」

「そうですね、十分にありえることだと思います」


 そうなのか……。思ってた以上に影響が出るものなんだな。


「穴って何さ?」


 そういえば双子には説明してなかったか。


「異世界に繋がる場所だってさ」


 実際に確認したわけではないんだが。まあエルフ野さんなんて存在がいるんだからあってもらわないとって感じだな。


「ほほう、亜空間へのゲートだね」


 また妙なことを口走って……。エルフ野さんのことも異星人だとか言ってたっけ。さすがは宇宙人、とでも言えばいいのか。疑うのは簡単だけど信じるのはなあ。部室に置かれた丸太からはキノコが順調に生えてるみたいだが。今もハチミツかけながら生で食ってるし。コーヒーには合わなそう。


「今日はその穴を塞ぎに行こうって話だ」


 それなのに部室でのんびりしているのは下校中の生徒にできるだけ見られないようにするためだ。ぞろぞろと路地裏に入っていくとか怪しくて仕方がないからな。そもそも普通にバスとかで行けばいいんだけど。お金がかからないという利点を考慮すれば箒に乗るのもやぶさかではなかったり。






 そろそろいいかと学校を出る。門を通り過ぎる生徒はぱらぱらといる程度。


 いい感じの路地裏に入ってから渡されたマントを着こんで箒でゴーだ。


 相変わらず空を飛ぶのには慣れないが、少しは下の景色を眺めていられる余裕も出てきた。


 少しして見えてきたのは幅の広い川。あれが後藤先輩の言っていた川か。河川敷も広くなってるな。あそこなら祭りの会場としても使えそうだ。


 橋はあれか。向かい合うようにしてアーケードになっているらしい。もしかして、どっちも商店街か? それなら仲良くすればいいのに、というのは部外者だから言えることか。


 にしても、よく真っ直ぐ目的地まで来られるもんだな。頭にナビでも入ってるのか。


 そして、川から離れた場所に着陸だ。そこは広いグラウンドになっている。野球をするのにはうってつけだ。


「ここが後藤先輩チームの練習していた場所か」


 腹痛は大丈夫そうだが。


「穴の気配はしませんね」


 元々なかったのかすでに消えてしまったのか。


「にゃあ」

「お! 猫ちゃん!」

「ノキシタな」

「ノキシタ!」


 よく先回りできるな。


「にゃあ」


 もう一鳴きしてノキシタはこちらに尻を向けて歩いていく。


「ついて来いって?」

「そうみたいね。人よりも感覚が鋭いのよ」


 さすが使い魔。俺より仕事をする。というか、俺がついてきてもすることがないんだよな。ちょっと悲しい。どこまでいっても凡人は凡人なのである。


 ノキシタはグラウンドの土部分から草の生えるところまで移動する。


「にゃあ」

「お、立ち止まったな」


 ここに何かあるのか?


「微かに気配はあるわね」

「確かにそのようですね」

「穴の?」

「はい、そうです」


 うーん、もやもやも特にないな。違和感もないし、自然そのもの。


「気配が微かにってことはこれから広がっていく、みたいな感じ?」

「広がる前に収まったみたいです」

「そっちか。だとしても原因事態は穴の影響だったってことか」


 こんなところに出来るとは運がなかったな、というよりもこんなところで良かったのか。駅に出来てたら大惨事だし。


「腹痛になった人たちは普通に治るんだよな?」

「はい、こちらの医療で問題なく治ります」

「それなら大丈夫だな」


 試合当日までに治ってくれるのがベスト。でも体力が落ちてるだろうし期待薄か。正直試合には負けてもどうってことないんだけどな。エルフ野さんが張り切ってたし勝ちたいところだが。


「とりあえず任務は終了か」

「えー、何もなし?」

「ビームは?」

「ビームって何だよ……」

「バシュン、てゲートを吹き飛ばすんじゃないの?」

「吹き飛ばしません」

「ぶーぶー」

「まあ折角来たんだし、商店街見に行ってみるか」

「さんせーい!」

「はんたいのはんたーい!」

「いや、ここからなら歩きでいいだろ」

「そう?」


 乃真路が箒に乗ろうとしていたので引き止める。


「では行きましょうか」


 グラウンドを出て道路を歩く。割と小奇麗なところだよな。マンションなんかの背の高い建物は少なくて住みやすそうだ。マンションに住んどいてなんだが。






「ここか」


 十分もせずに到着だ。それほど距離はなさそうな商店街。どこか懐かしい雰囲気だな。


「まあまあ賑わいはある方か」


 自転車を押しながら歩くおばちゃんが目に付く。シャッターが下りてる店も数件あるが、頑張ってる方だろ、とか上から目線で語ったてみたり。


「いい匂いがする!」

「であえであえー!」


 走ってったな。向かった先は揚げ物屋か。確かにいい匂い。


「あれ、後藤先輩?」

「お、ELFの会の皆か」


 店先に近づくとエプロンを着けた先輩が店の中に。


「バイトですか?」

「バイトと言うより手伝いだな。ここ、家の店なんだよ」

「なるほど」


 そういうことか。実家がこういうところってちょっと羨ましいよな。


「実は親父も腹痛でまだ寝込んじゃっててさ」

「そうだったんですか。試合当日までには難しそうですか?」

「うーん、たぶん無理そうかなー」


 ダメか。シャッターが下りてるところも、もしかしたらダウンしてるのかな。


「うひょー、うまそー!」

「おすすめは!?」

「コロッケだね」

「コロッケひとーつ!」

「ひとーつ!」


 確かに美味しそうだ。値段も八十円と安いな。


「俺ももらいます。エルフ野さんと乃真路はどうする?」

「ぜひ!」

「私ももらおうかしら」

「まいど! ちょっと待ってね」


 揚げたてをくれるようだ。


 ここのコロッケはどっちタイプだろうな。甘みがあるのかどうか。俺はもっぱら甘みの強いのが好みなんだが。コロッケはおかずではなくおやつだと主張したいね。


「お待たせ!」

「わーお! めっちゃ熱い!」

「そりゃそうだろう」


 代金を渡してコロッケを受け取る。


「あっち!」

「兄ちゃんさあ、熱いのは当たり前だよね?」

「……」


 つい言葉が出ただけだから。


 ではいただこう。


「っ!」


 歯を入れた瞬間にさくっといい音がする。初めに感じたのは揚げたて特有の熱さ。しかし、すぐに口の中に甘みが広がっていく。


「先輩、いい仕事しますね」

「だろう? 野球の試合に勝てたら二個でも三個でもおごってやろう」


 それはありがたい話ではあるんですが、エルフ野さんを見くびってると店が潰れますよ?

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