男が妹でもいいじゃない

 今日はエルフ野さんも乃真路も用事があるらしいので、一人で鍵を借りて部室に入る。エルフに魔女だからな。何かとしなきゃならないことも普通の人よりは多いんだろう。受験シーズンになれば俺も暇だなんだと喚いていられなくなるのかな。


 ま、今からそんなこと考えたくもないわけで。暇をとことん堪能させてもらおう。


 本棚には乃真路が置いていった軽い小説があるからそれでも読んで時間を潰すかと、そう思っていたのだが……。


「兄ちゃん暇なんだけどー」

「面白いことないのー?」

「……何でお前らがいるんだ?」


 相談事は解決したはずだけどな。我が物顔でだらだらしてくれちゃって。


「何言ってんの? 那穂もここの部員なんだよ?」

「那緒も那緒もー」

「え? 入部届け出したのか?」

「入部届け? 何それ?」


 何それって……。


「それを出さないと部員にはなれないんだよ」

「ほほーう、めんどうなんだね」

「それぐらいで何を言ってんだ」

「で、入部届けどこ?」

「……はあ」


 まあいいか。エルフ野さんも別に文句は言わないだろう。こいつらは魔法のことも知っているんだし。いまだに本気にしてない可能性もあるが。


 あれだな、入部条件はエルフ野さんの正体を見破った者に限る、みたいな。だれかれ来られてもって話ではあるし。忘れがちだけど穴を探す活動なわけで。結局こいつらも穴には関係なかったんだな。


「二人はここの活動が何なのか分かってるのか?」

「楽しいことをするとこ!」

「それそれ」


 最終的には間違ってないな。エルフ野さんがボーナスをもらって酒を楽しむのが目的だから。


 戸棚のクリアファイルから入部届けを二枚引き抜いて二人に渡す。


「ナイス兄ちゃん」


 これで部員が五人か……。同好会から正式に部活動へ昇格?


 傍から見ると女子率が高くなるな。だがしかし、片割れの那緒は男なわけで。スパッツを穿いてる方、ではなく髪の毛が短い方が那緒で長い方が那穂らしい。双子とはいえ性別が違うのにここまでそっくりになるんだな。


「そういえばどっちが姉? 兄? なんだ?」

「那穂がお姉ちゃんでーす」

「那緒が妹でーす」

「弟な」

「妹だよん」

「……」


 まあどっちでもいいんだがな。


「よっしゃー! 書けた!」

「出してくる!」


 扉を開けて二人はダッシュで部室を出て行った。騒がしいやつらだ。


「兄ちゃん大変だ!」


 と思ったら戻ってきた。


「何が大変なんだ……?」

「どこに出せばいい?」

「……職員室に居る古園先生な」

「わかった!」


 やれやれだ。


 お茶を入れてリフレッシュしようとしたところで、ふと気になる物が目に付いた。


「何だこりゃ」


 部屋の隅に六十センチほどの丸太が三本置かれていた。それが三段ある黒いラックへ横倒しになって並べられている。


「何で丸太……?」


 いつから置いてあったっけか。観賞用には適さないと思うんだが。実用性もなさそうだし。


「へい、兄ちゃんお待た」

「はえーなおい」

「ちっちっち、甘いぜ兄ちゃん。それは残像だ」

「いや、意味分からんから。ちゃんと出してきたのか?」

「あたぼーよ」


 古園先生受け取ったんだな。問題児だからって拒否するんじゃないかと、ちょっと思ってた。


「お、それ見てたの?」

「ああ、変な物があったからな」

「変な物じゃあないんだなあ、これが」


 その口ぶりからすると、持ち込んだのはこいつらなんだな。いつ持ってきたんだか……。


「これは銀河中で話題沸騰のベストセラー商品!」

「その名もキノコが生える丸太だ!」

「……へえ」


 銀河とか言われてもな……。それにキノコが生える丸太って、もう少しなんかあるだろ。


「……キノコ好きなのか?」

「普通!」

「あそう……」


 俺はそれほど好きでもないかな。


「でも宇宙じゃ必需品なんだよねー」

「キノコがか?」

「そう! キノコはものすごいパワーを秘めてるんだよ?」


 よくわからないがキノコはすごいらしい。宇宙って変わったところなんだな。


「で、何でこんなの持ってきたんだ?」

「だってキノコ生えてくるんだよ?」

「そしたら食べれるじゃん?」

「生で食べるのか?」

「焼いたり?」

「茹でたり?」

「部室は火気厳禁じゃないか?」

「マジで?」

「たぶんな」

「兄ちゃんさあ、あんまりかたいこと言ってるとはげるよ?」

「はげないから」

「じゃ、生食だね」

「生かあ……」


 食べるのならしっかりと調理して欲しいんだが。


「ていうか、本当にこんな丸太から生えてくるのか?」

「ふふん、はげと一緒にされちゃ困るってもんよ」


 はげと比べられてもな……。


「一日一キノコはかたいんじゃないかな?」

「そんなにか……」

「なんてったってベストセラーのキノコが生える丸太だからね!」


 本当に生えるのならそれも信じていいのかもしれない。


「でもあれだな、宇宙の物を地球に持ち込んで大丈夫なのか? 菌とかまずくない?」

「だいじょーぶ!」

「……」


 まあいいか。宇宙どころか異世界から来てる人だっているんだしな。いまさらっちゃいまさらだ。


 さてと。


「入れたお茶を飲むか、と思ったら空なわけだが?」

「那穂飲んでないよ?」

「那緒も那緒もー」

「二人が飲んでないのならなくなるわけがないんだが?」

「兄ちゃんさあ、蒸発って知ってる?」

「知ってるな」

「なら分かるよね?」

「ああ、二人のどっちか、もしくは両方が飲んだってことだな」

「お、兄ちゃんするどい!」

「いや、その結論になるのが普通だから」

「もー仕方ないなー。那穂が入れてあげよう」

「那緒のも入れてー」

「那緒はさっき飲んだでしょ」

「ぶーぶー」


 お前か。

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